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日本の水が標的に!? 世界の水事情は急変中!
―世界の水ビジネスの今―

日本の水が危ない⑤

 なぜ、水ビジネスは活発化するのか。そこには、大きく四つの理由があげられる。

 第一に、人口増加と都市化だ。日本では人口減少が進んでいるが、地球人口は増加の一途をたどり、国連は2030年には86億人を超えると推計している。とりわけ開発途上国での人口増加が目立つが、これと並行して都市化も進んでいる。人口密集地が増えると、19世紀の欧米諸国と同じように、コレラなどの感染症対策として、水道の普及が課題になる。

 第二に、開発途上国で経済成長が進むなか、富裕層や中間層を中心に、ライフスタイルに変化が生まれていることだ。人間が消費する水のうち、最も多いのは農業用水で全体の約70%を占め、これに工業用水(約20%)、生活用水(約10%)と続く。生産活動が活発化することで、農業、工業での消費量も増えているが、それを上回るほどの勢いでシャワーやトイレなどの生活用水の使用量が増えているのである。

 第三に、貧困対策として安全な水の確保が国際的な目標になっていることだ。2015年に国連で採択された世界全体の開発のための「持続可能な開発目標」(SDGs)では、「全ての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ことが盛り込まれている。2015年段階で、地球人口の29%が安全に管理された飲料水にアクセスできず、61%が安全な下水システムにアクセスできていないとみられており、SDGsでその改善が盛り込まれたことは、いわば開発途上国での水道の普及にお墨付きが与えられたことをも意味する。

 そして第四に、地球温暖化である。地球全体で気候が変動するなか、日本では大型台風やゲリラ豪雨といった「過剰な水」が問題になりやすいが、これとは逆に干ばつなど異常な水不足に見舞われる国が少なくない。水が十分手に入らない状態を「水ストレス」と呼ぶが、アメリカのシンクタンク世界資源研究所のシミュレーションによると、2040年には水ストレスが「非常に高い」国は世界全体で33カ国、「高い」国は26カ国にのぼると推計される。「非常に高い国」にはサウジアラビアなど砂漠の国が目立つが、「高い国」のなかにはアメリカ、オーストラリア、中国、インドなども含まれる。こうした国では、それまで以上に安定的に水を供給する必要があるため、水道の需要が増えているのだ。

KEYWORDS:

『日本の「水」が危ない』
著者:六辻彰二

 

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 昨年12月に水道事業を民営化する「水道法改正案」が成立した。
 ところが、すでに、世界各国では水道事業を民営化し、水道水が安全に飲めなくなったり、水道料金の高騰が問題になり、再び公営化に戻す潮流となっているのも事実。

 なのになぜ、逆流する法改正が行われるのか。
 水道事業民営化後に起こった世界各国の事例から、日本が水道法改正する真意、さらにその後、待ち受ける日本の水に起こることをシミュレート。

 

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六辻彰二

むつじしょうじ

国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書、共著の他に論文多数。政治哲学を扱ったファンタジー小説『佐門准教授と12人の政治哲学者―ソロモンの悪魔が仕組んだ政治哲学ゼミ』(iOS向けアプリ/Kindle)で新境地を開拓。Yahoo! ニュース「個人」オーサー。NEWSWEEK日本版コラムニスト。


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