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ブローニング・ハイパワー~連合国と枢軸国に分かれて戦った傑作銃~

戦場の兵士が頼った腰に下げた「最後の切り札」【第二次大戦軍用拳銃列伝⑥】

■ブローニング・ハイパワー~連合国と枢軸国に分かれて戦った傑作銃~

ブローニング・ハイパワーの戦後モデル。ハンマーがオリジナルのリング・タイプから指かけのしっかりしたフィンガースパー・タイプになり、セイフティー・レバーもオリジナルの左側面レバーではなく、左右両方で使えるアンビ・タイプとされている。

「銃器設計の天才」と称賛されているジョン・ブローニングは、一連のブローニング機関銃や各種のコルト社製オートマチック拳銃の設計を手掛けてきたが、1926年に逝去する前、1923年に行った彼の人生における最後の拳銃の原設計を、ベルギーの銃器メーカーであるファブリック・ナショナール(FN)社の設計技師デュードネ・サイーブが改良して1935年に完成させたのが、このブローニング・ハイパワーである。そのため、完成した年号を冠してM1935とも称される。

 当時のオートマチック拳銃には珍しいダブル・カラアム・マガジン(複列弾倉)を採用し、13発という従来のオートマチック拳銃に倍する装弾数を実現したが、本銃における成功例が、オートマチック拳銃にはダブル・カラアム・マガジンを用いるという、その後の設計上の流行のはしりとなった。

 使用する弾薬は、ドイツで開発され第一次大戦でルガーP08に採用されてすでに定評のある9mmパラベラム弾で、本銃の直後に登場した、ルガーP08の後継のドイツ軍制式拳銃であるワルサーP38にも用いられている。

 やがて第二次大戦が起こると、西方戦に勝利してベルギーを占領したドイツ軍は、ブローニング・ハイパワーが同軍制式の9mmパラベラム弾を使用するのに加えて優秀なことに着目。P640(b)の鹵獲兵器番号を付与し、FN社に生産を継続させて自軍の装備に加えた。

 だがその一方で、ベルギーの降伏間際にイギリスへと脱出した一部のFN社技師たちが本銃の設計図を持ち出しており、軍用に生産してはどうかとイギリス政府に提案した。

 しかしその頃、イギリス本国の各銃器メーカーは既存の銃器の増産に追われて、新しい設計の銃器の新規生産を開始する余裕がなかった。そこで、まだ生産能力に余裕があった自治領カナダのジョン・イングリス社で生産されることになった。

 ブローニング・ハイパワーは、従来のイギリス連邦軍の各種制式拳銃よりも図抜けて優れていたので、生産当事国のカナダ軍はもとより、全イギリス連邦軍が本銃を制式採用している。だが絶対数が不足したため、第二次大戦中は空挺部隊やコマンド部隊など、一般の兵科に比べて拳銃を使う機会が多い兵科に重点的に配備された。

 戦後になるとイギリス連邦のみならず世界の多くの国の軍や法執行機関に制式採用され、民間市場でも人気が出て、現在でも高い評価を受けている。

 名優ケヴィン・コスナーが主演し、共演した歌手のホイットニー・ヒューストンが主題歌を歌った映画「ボディガード」で、コスナー演じるボディガードのフランク・ファーマーが、闇夜に音を頼りにして本銃を発砲するシーンが印象的だった。

 

【データ】
製造国:ベルギー
製造開始年:1935年
全長:19.6cm
銃身長:11.8cm
重量:998g
装弾数:13発
使用弾種:9mmパラベラム
ライフリング:4条/右回り

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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