《徒いたずらに性欲を刺激する》猥褻な『春画』は刑法175条で禁じられた「猥褻図画」に当たる。だが、大英博物館の春画展に協力したシャガンさんは「春画は人生を幸せにしてくれる」と語る。(『一個人』2019年10月号 より)
葛飾北斎『合わせ鏡』 文政5年(1822)/北斎は春画も 多く手掛けた。平安貴族らしき男女の絵だ。

一目で魅了された歌川国貞の春画

「私が日本に来て、今年で30年になります。もともと浮世絵を集めていたん
ですが、26年前、千駄木に住んでいたころ、池袋にあった画廊の店主に“シ
ャガンさん、春画に興味あります?”と、奥の部屋でこっそり見せてもらったのが春画との出会いです」

オフェル・シャガンさん/Offer Shagan 古美術研究家。イスラエル出身。1989年の来日以来、東南アジア、インド、モンゴル、日本などの美術品コレクションを多数所有。東京やイスラエル、イギリスなどの美術館に寄贈もしている。著書に『ニッポンの春画百科 上巻・下巻』(平凡社)、『わらう春画』(朝日新聞出版)など。 https://shungacollection.com/

 それが、歌川国貞の色摺大本である『四季の詠ながめ』(文政12年/1829)だった。
「女性が男の帯を引っ張っている、すごくきれいな版画でした。ヨーロッパ
のポルノとは違って、女性の表情が生き生きしていて、恥ずかしがっていな
い。オープンな感じが魅力的でした」
――桜紙を咥えた女性は、困った顔の男性の帯を引いて“よう、もっと”と
せがんでいる様子。二人の着物はもとより、乱れた箱枕、豪華な布団、蒔絵
造りの三方や、台のものらしい食べ物を載せた大皿、達磨が目を剥いている
屏風なども丹念に描きこまれていて︑当時の遊郭の一室を偲ばせる。
 以来、春画に魅せられて買い集め、今ではコレクションが1万点を超えた
と、シャガンさんは言う。

歌川国芳『当世吾妻婦理』 天保2年(1831) 
色摺半紙本三冊。庶民の健全な性生活を描く。 夏の夜明けだろう、蚊帳を畳む夫婦。壁に掛け た着物、縁側の先に咲く朝顔。猫も後始末だ(笑)。

 イスラエルの港町で生まれたオフェル・シャガンさんは、イギリス大英博
物館「春画——日本美術における性と快楽」展や、永青文庫「Shung
a」展の仕掛人の一人。平凡社『ニッポン春画百科 上下巻』や朝日新書
『わらう春画』の著者でもある。

「春画の女性はナチュラルです。したいこと、気持ちのいい好きなポーズを
女性の方から積極的に要求している。書入れを読むと、《結婚人生がこんな
に幸せだとは思わなかった》とか《愛してるなら立たないはずはない》と泣
く女性(渓斎英泉『 夢多満佳話』文政6年/1823)とか、普通の男女がありのままに自然にセックスしている。それが魅力ですね」と、シャガンさんは熱く語る。

「春画の男性器や女性器がすごく大きいのは、見る人にコンプレックスを与
えないためだったと思います。春画には、セックスの後のシーンを描いたも
のもある。ちり紙が散らかった部屋で蚊帳を畳んだり、紐を引いて当たった女性が男性をゲットする遊び心いっぱいの春画もある。江戸時代、春画は男女どちらにも楽しめるもので、〝笑い絵〟といいました。嫉妬や好きなどの感情を表現する〝書入れ〟も、アーティストのメッセージとしてウィットたっぷりです」

礒田湖龍斎『風流十二季の栄花』 安永期(1772〜 81 年)
色摺中錦 12 枚。障子の穴から覗く目と鼻が見える。 机に向かって墨を磨る前髪姿の若者と、突っ伏し ている娘の姿勢が、なんとも思わせぶりだ。