私自身のセクシャリティはゲイで、学生時代からラッシュはよく使っていたものです。主な販売場所は、アダルトショップと言われていますが、街中にある本屋や雑貨店などでも1000円くらいで売られているほど流通していたため、当時はドラッグとしての認識すらありませんでした。

 ところが2006年頃から販売の規制が始まり、2014年には、所持や使用が禁止されてしまいます。

 規制に至った理由は諸説あって、他のドラッグへの入り口(ゲートウェイドラッグ)になるとして取り締まった、販売元を押さえたかったなど様々ありますが、当時社会問題になっていた「危険ドラッグ」を取り締まるため、ラッシュもまとめて包括指定したというのが、大きな理由として考えられています。

 

 私にとっては、あればちょっと楽しめるご褒美みたいなものでしたが、手に入らなくても、特に困るほどのものではありませんでした。そんな中、「懐かしいラッシュに似た効果を出せる液体を作り出すことに成功した!」というサイトを偶然見かけます。興味本位でサイトを見てみると、使っている材料は全部合法だといいます。希望する人には、作るための製造キットを分けてくれるとも書いてありました。当時の私は沖縄局に勤務していて、付き合っていたパートナーと一緒に住んでいたのですが、作り方を見ると「冷蔵庫で一晩寝かす」など、ちょっと面倒くさい工程があります。そもそも、謎の液体を冷蔵庫に入れていたら、パートナーに絶対怪しまれるでしょう。「一人用」で使いたかった私は、購入することなく、そのうちサイトの存在自体も忘れていました。

 

 それから半年ほど経つと、私は東京に転勤することになります。

 京都→金沢→沖縄と十年以上の地方局勤務を経て、目標の一つだった東京アナウンス室の勤務です。担当は、新しく始まったニュース番組のリポーターでした。憧れていた東京勤務は思うようにできないことが多く、毎日自分の実力不足を痛感していました。日常のストレスから薬に手を出したのか? というストーリーを作るのは簡単かもしれませんが、ストレスはそれなりにあったものの、先輩や同僚にも恵まれ、それなりに楽しくやっていたのも事実です。

 

 ところが、夏が終わる頃に、偶然例のサイトに出会ってしまいました。自分で探したわけでもないのですが、前回サイトを見た時とは環境が変わっていて、今は一人暮らしです。ちょっと買ってみようかな。心の隙間に入るとは、こういうことかもしれません。

 メールで問い合わせをすると、海外経由でキットを送りますとすぐに返事がありました。振込先は日本の口座で、料金は3000円くらい。当時、闇でラッシュを手に入れるとすると1本1万円くらいすると聞いたことがあったので、それに比べると破格です。まぁこの価格だし、合法だって書いてある。ちょっとくらいは、本物の感覚が楽しめるかな? 違法なものだったらサイトまで作って販売しないでしょう。私は軽い気持ちでした。

 海外から送るとありましたが、なぜかレターパックで製造キットが送られてきます。粉状のものが2種類と、プラスチック容器に入ったアルコールっぽい液体が一本同封されています。

 簡単にいうと、AとBを混ぜ合わせ、一晩冷蔵庫で寝かせる。それにCと精製水を混ぜると、黄色い透明な上澄が出て来るのです。それが「ラッシュ」に近い何かでした。特に自分で計量するでもなく、言われた通りに混ぜるだけという簡単さ。サイトを参考に作ってみました。効果としては、まぁラッシュに近いような遠いような感じです。点数をつけるとしたら60~70点くらいのものだったと覚えています。ギリギリ合格点。人によっては、満足いかないかもしれません。それから時間をあけて2、3度買ったものの、ほとんど効果がない時もありました。とはいえ、値段も安いし、合法なものであれば、たまの楽しみに良いのではないか。

 後から聞くと、私が逮捕される半年前からすでにこのサイトは捜査機関に目をつけられていたそうです。

 私は本名で購入していたため、捜査する中でサイトの購入者にどうやらNHKのアナウンサーがいると判明したといいます。

 最後に注文した製造キットが届いたのは、逮捕の数日前です。出来上がったのが金曜の夜くらいで、一度使用しました。そして残っていたのが、5・1㎖。小瓶で1本ちょっとです。この5・1㎖の液体が私の人生を大きく揺るがすものになります。

(『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』著者/塚本堅一 第1章より)