2018年に改正された日本の『改正水道法』。法改正にあたって、民間参入にともなうリスクが国民にほとんど説明されていないことだ。
 さらにはこの改正内容は、世界の潮流に逆行しているという。今回は改正水道法の問題点を世界の流れとともに紐解いていく。(『日本の「水」が危ない』六辻彰二 著より

【世界に逆行する「水道民営化」】

 

 世界の潮流からみれば周回遅れ(前記事参照)とさえ呼べる2018年改正水道法にも、大きく三つの問題が見受けられる。

 第一に、法改正にあたって、民間参入にともなうリスクが国民にほとんど説明されていないことだ。コンセッション方式の導入を推進した政府は、「水道の危機」と「民間企業の効率的な経営」を金科玉条のようにかざす一方、「水道民営化」の先進地で多かれ少なかれ問題が発生してきたことには口をつぐんできた。

「民間企業の失敗」は主に、安全と料金があげられる。このうち、安全面での問題をあげると、コスト削減を重視する民間企業の運営によって安全対策がおろそかになり、水質が悪化するケースは数多く報告されており、PPP発祥の地イギリスの首都ロンドンでは、1990年代に赤痢患者が急増した。最近では2018年12月、イギリス南西部のコッツウォルズで、テムズ・ウォーターが環境規制に違反して汚水を河川にそのまま流し、自然環境を損ねたとして、裁判所から200万ポンドの罰金を命じられている。

 その一方で、「水道民営化」で料金が高騰することも珍しくない。民間企業にとっては採算が合わなければ話にならないため、公営の場合より水道料金の引き上げが目立つ。例えば、1985年にコンセッション方式を導入したパリでは、1985年から2009年の間に水道料金が265%上昇した。

 こうした問題は各地で報告されており、その結果、一旦民間企業に委託された水道事業が再び公的機関の経営に戻されることさえある。トランスナショナル研究所と国際公務労連の調査によると、2000年から2014年までの間に、民営化されていた水道事業が再公営化(エージェンシー化された公的機関による運営への切り替えを含む)された事例は、世界35カ国で180件にのぼった。また、イギリスのシンクタンク、スモール・プラネット研究所によると、民間委託された事業が再公営化される割合は、電気などエネルギーで6%、通信で3%、運輸で7%だったのに対して、水道の場合は34%にのぼる。

 

 こうした背景のもと、推進派だった国や機関からも、「水道民営化」に消極的な見解が生まれ始めている。2018年2月、世界銀行の専門誌『ワールドバンク・リサーチ・オブザーバー』が、「民間企業の参入だけでは水道事業のパフォーマンスは向上しない」と論じるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのソール・エストリン教授らの論文を掲載した。この論文は世界銀行の見解を示すものではないが、ワシントン・コンセンサスの一角として「水道民営化」の旗振り役を務めてきた世界銀行の専門誌にこうした論文が掲載されること自体、水道事業に民間参入を進めることの弊害があらわになっていることを象徴する。

 さらに2018年10月、PPPやPFIの本家ともいえるイギリスでは、新たなPFI事業を行わないことを政府が決定し、事実上PFIは中止された。これは「民間参入で公共サービスを改善できる」という従来の主張を翻すものといえる。

 こうしてみたとき、2018年改正水道法は周回遅れであるばかりか、世界の潮流に逆行するともいえる。