そもそも、なぜ私がドラッグなんかに手を出したのか。ありふれた理由かもしれませんが、ストレスとうまく付き合うことができませんでした。一日の終わりに、ストレスを和らげるためご褒美スイーツをコンビニで買う感覚で、怪しいサイトからドラッグを購入したのです。

 NHKのアナウンサーというと、「いい仕事をしている」と人は羨むかもしれませんが、私は新人の頃から劣等感の塊でした。今日も出来ないことが多かった。もっといい仕事をするアナウンサーは大勢いるのに、なぜ私はここにいるのか。どこまでいっても自分に自信が持てない。それを隠して生活していたのです。

 もちろん、会社の仲間だけでなく、友人も大勢いました。でも、その人たちに自分の弱みを見せるのが怖くて、全く出来ませんでした。大げさではなく、絶対に無理でした。新人アナウンサーの頃は、叱られたり失敗したりすることで、「やっぱり自分はダメなやつだ」とバランスのようなものを取っていたものです。それが、アナウンサーとして経験を積むようになって、徐々に大きな失敗もしなくなりました。そこそこ、なんでも出来るやつ。これが、とても厄介でした。社会人として成長するのは当然のことだし、今更何をいっているのかという気もするのですが、釈放された後、先輩たちから久しぶりに叱られて、新人時代のダメな自分を思い出し、ホッとした気持ちがあったほどです。

 遅かれ早かれ、どこかで崩れていたかもしれませんが、その前に私はドラッグでつまずいてしまいました。

 ひとたび薬物事件を起こすと、どうなるのでしょうか。まず、信用も仕事も失います。持ち家も手放しました。仲の良かった友人もいなくなります。この辺までは、誰もが想像する一般的な転落人生かもしれません。では、薬物事件を起こした人が、どうやって人生を立て直していくのか。回復施設では、どうやって過ごすのか。あまり知らない人の方が多いのではないでしょうか。私もまだ道半ばではありますが、2年近くかけて、ようやくその過程を伝えることができるようになりました。

 これまで、薬物事件というと怖い、自分には関係ないと、様々な理由をつけて避けてきた人もいるでしょう。

 私自身も、薬物事件を起こした張本人にもかかわらず、以前はそう思っていました。そして、薬物に対して多くの偏見を持っていたのです。大勢の薬物依存症者と一緒に過ごしましたが、暴れるシャブ中なんて一人もいません。そういう偏見を持つ人たちにこそ、この本を読んでほしいと思います。

 薬物の事件を起こす人は、一体どんな悪人なのかしら? 逮捕されたら、生活はどのように変わっていくの? という興味本位から、この本を読む人もいるでしょう。あるいは、私と同じように薬物事件を起こした過去があったり、会社をクビになったりしたスネに傷持つ人たち。また身近な家族に、薬物の問題を抱えている人たちもいるかもしれません。

 薬物の問題は、決して他人事ではない。薬物の問題をそこまで深く考えていなかった私が、図らずも足を踏み入れた依存症の世界は、どのようなものだったのか。それをお見せすることで、薬物の問題について考えるきっかけになってくれれば幸いです。

(『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』著者/塚本堅一 まえがきより)