新年度の幕開けとともにミユ、ミサト、モモコという部長トリオが中心となり、精華は2018年度のスローガンを掲げた。

 真価 進化 新華
 全国に咲きほこれ
 日本一の櫻内サウンド

 最初の3つの「しんか」は、それぞれ「真価=結果だけではない、本当の音楽面や活動面の価値を追求すること」、「進化=前年より音楽面でも運営面でもさらに上を目指すこと」、「新華=新しい精華になっていくこと」という意味を持っている。

 精華のトランペットパートはプロでも活躍する奏者を輩出してきたが、そのトップ奏者でもある音楽部長・ミユは、特に「真価」というコトバを重視していた。それは、顧問の櫻内先生や、主にマーチング指導を担当する小川佑佳先生が常々強調していたことだった。

「今年の3年生は人数が少ない。全国大会出場と金賞受賞という目標や結果だけにとらわれず、音楽や部活動の本当の価値を大切にしよう」

 先生の言葉を聞くと、ミユは「そのとおりやな、大事なのは『真価』や」と思った。ところが、精華はそのコトバとは正反対の方向へ向かってしまったのだった。

 コンクールの課題曲は郷間幹男作曲《コンサート・マーチ「虹色の未来へ」》、自由曲はベルト・アッペルモント作曲《ブリュッセル・レクエイム》に決まった。

 伝統の迫力満点のサウンドはこの年も健在だった。精華では音楽室が手狭で、150人が肩と肩が触れるほど密集して練習する(2019年度からは広いレッスン室で合奏が行われるようになった)。狭い空間で演奏すると音が大きく聞こえるため、つい音量が小さくなってしまいがちだが、精華の場合は他校を凌駕する音のパワーを維持し続けている。その理由は、異性の目を気にする必要がない女子の集団だということと、マーチングの練習で力いっぱい楽器を吹き鳴らしていること、さらには先輩から受け継がれてきた伝統のおかげだった。

150人が肩と肩が触れるほど密集して練習する精華女子の吹奏楽部。

 精華では、先輩が後輩にマンツーマンで教える「ペア練習」が特色のひとつになっている。この練習によって、師匠から弟子へと職人技が伝えられるのと同じように、「精華サウンド」が受け継がれていくのだ。

 トランペットのトップ奏者であるミユは、精華の卒業生で、プロで活躍している広田あやかに憧れていた。

「広田先輩みたいになりたい。広田先輩みたいな音で吹きたい!」

 真似るように吹いているうちに、ミユ自身もパワフルな音を出せるようになっていった。世代は離れているが、ここでも精華サウンドの伝承があった。

 ところが、コンクールに向けて始動した精華は、スローガンに掲げた「真価」を忘れてしまった。2018年度の九州大会の会場があの因縁の熊本県立劇場に決まったからだ。

 2015年の「熊本の悲劇」以来、3年ぶりのその地が決戦の舞台となる。ただならぬ空気が精華を覆った。そしていつしか、いい音楽を奏でる、いい活動をするよりも、「活水に勝つ」ということばかり考えるようになってしまった。それは、3年前の先輩たちのリベンジであると同時に、「悲劇」を繰り返したくないという危機感の表れでもあった。

 勝負にとらわれた精華の部員たちの気持ちは、いつしかバラバラになっていった。