「日本酒も日本も好き!」と語る北京在住の女子の皆さんと、日本酒のPR・販売を担当するジェニーさん(写真左)。ハッピを着てほろ酔い気分で記念写真。

■国産ウイスキーに続いて
日本酒も手に入りづらくなる!? 

 今や世界中で高い評価を得ているメイドインジャパンのお酒。国産ウイスキーが海外の酒類品評会で数々の栄誉を勝ち取り、大きな国外需要が生まれたことで「山崎」などのブランド酒が手に入りにくくなったのはご承知の通りだが、ウイスキーに続いて世界から熱い注目を浴びている日本酒も、もしかすると今後さらなる希少化が進むかもしれない。
 というのも、お隣中国でいま、密かな日本酒ブームが起きているためだ。

 高度成長の時代が終わりを告げ、爆買いブームが一段落した今日においても中国人の購買力はいまだ圧倒的。旅行で日本を訪れた中国人たちが日本酒のおいしさに触れ、その体験がSNSなどによって人々の間に広まっていくことで、生活にゆとりのある中間層から富裕層の間で日本酒需要が生まれつつある。

 その商機をものにすべく、また日本酒を通じて日中間の文化交流を深めようと中華の大地で汗を流す日本人がいる。香港企業で日本酒のPR・販売に従事する初田宗久さんだ。もともと日本の出版社に長く勤めた後、一念発起して40代から上海留学を果たし、以来約10年の長きに渡って中国社会を見つめてきた屈指の中国通である。

 文化的に日本と近いようでいて、実際に懐深く入ってみるとさまざまな違いを痛感させられる──近くて遠い国・中国。人々の好みも違えば、お酒の文化もまた大きく異なる。しかし、中国でいま起こっている日本酒ブームはどうやら一過性のものではなく「本物」であるというのだ。

 なぜ現代の中国人は日本酒をこよなく愛するのか?
 日本酒が受け入れられたのはどんな理由によるものなのか?

 日本の酒蔵との買付交渉から中国各地でのPRイベントまで第一線でこのテーマに関わってきた初田氏に聞いてみた。

 

■『日本食』と『獺祭』のブームをきっかけに広まった日本酒

 「中国で日本酒が受け入れられているのにはさまざまな要因がありますが、順番としてはまずビザ要件が緩和されて日本旅行がブームとなり、また中国人の間で健康志向が高まるにつれて日本料理が人気となったことが前提としてあります。
 今や日本料理店は中国各地で普通に見かけるようになったとはいえ、そこで提供されるお酒はいわゆる大衆酒がメインでした。特に中国では食べ放題の日本料理屋が多いのですが、高価なお酒はコスト的にも出しづらかったんですね。
 ところが、日本旅行でおいしい日本酒に触れた中国の人々は、帰国後に自国に出回っている日本酒を飲むと『あれ? 日本酒ってこんな味だったっけ?』となるわけです。そうしておいしい日本酒を求める声が主に富裕層を中心として中国で高まってきたんです」(初田氏)

今回インタビューに答えて頂いた初田宗久さん。香港を拠点としながら日本酒を中国に広めるために大陸中を駆け巡っている。

 そのような中、日本酒ブームの起爆剤となったのが日本でも有名な純米大吟醸「獺祭」なのだという。

 「日本でも『獺祭』ブームがありましたが、中国では日本と同じくらい、もしくはそれ以上にウケました。純米大吟醸という日本酒のジャンルを中国に広めたのは『獺祭』と言っていいでしょう。
 「獺祭」が中国人に受け入れられた最大の理由は、分かりやすさとブランド力、そしてお手頃価格だと思います。甘みがあり、フルーティーな香りが強くて、中国で市販されている日本酒に比べてはっきりと味が違う。
 日本の飲んべえの方から言わせると『獺祭は女子の飲み物』といった声も聞きますが、市場開拓の上で分かりやすい味というのは極めて大きな強みです。

 また、中国の人々は日本人など比ではないくらいのブランド好き。飲んだことを他人に自慢するという目的もあって、ひとたびブランドに火がつくと猛烈なブームになるんです。
 中国人の日本旅行の定番お土産で『白い恋人』がありますが、日本には他にもおいしいお菓子がいっぱいあるよと言っても、中国人は迷わずブランド重視で『白い恋人』を買いたがります。
 『獺祭』はある意味、『白い恋人』のお酒版という地位を確立したのかもしれません。また、『獺祭』は比較的値段がお手頃で、かつ製造工程が機械化されているため供給も安定しており、中国の日本料理屋が置きやすかったということも大きいですね」(初田氏)

 

 

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