「亡くなってしまった方に、今の自分の想いを伝えられたら……」生前は正直になれなかったことへの後悔や、時間が経って分かったこと、今の自分を見て欲しいという気持ちなど、今は亡きあの人への様々な想いを、誰しも心に抱いていることでしょう。書籍『亡き母への手紙』(KKベストセラーズ)で注目を集めている、「亡くなった大切な方に手紙を届ける“手紙参り”という仕組みを紹介します。

「手紙寺」を知っていますか?

 

「手紙参り」という新しい仕組み

 悲しみを乗り越えるためにしたためた大切な人への手紙。ポストに投函しないままだと、届く実感がしないものです。でも、そんな手紙の「送り先」があるのをご存知でしょうか。

 手紙に指定の宛先を書いてポストに投函すると、届いた先で無料でお焚き上げをしてくれる、一般社団法人手紙寺が始めた「手紙参り」という仕組みです。

 届いた手紙は一切開封されることなくお焚き上げされるので、亡き母に伝え

希望すれば、お寺が責任を持って「お焚き上げ」を行ってくれる。
<手紙参りの流れ>
書く→投函する→手紙寺に届く→手紙参り供養→
お焚き上げ→「あの人」に届く

たいことを他人に読まれる心配もありません。誰かに読まれると思うと、体裁を気にしてなかなか思うように書けなかったりしますが、この仕組みを使えば真摯に自分と向き合え、亡き母に本当に伝えたかったことを綴ることができます。それは同時に、自分自身の気持ちを整理することにもつながります。

 また、手紙を亡き母へ届けたいという想いが頭の中でぼんやりと夢想したままではなく、こうしてしっかりと可視化されることで、亡き母の手元に届いたという実感が湧いてくる。どこか想いを成し遂げたといった達成感のようなものも味わえる仕組みです。

手紙は故人と対話するためのツール

 もともとは、東京・江戸川にある證大寺(しょうだいじ)というお寺が始めたもので、宗教宗派に関わらず幅広い人が利用できるようにと、2019年に一般社団法人手紙寺という受け皿を用意しました。

 證大寺ではこれまで葬儀や法事の際に、参列者に手紙を書いてもらう「手紙供養」を行っています。

 本来葬儀とは、故人との出会いを確かめたり、「あなたのことは忘れない」というお別れをしたり。また、故人に向けて自分は「これからこうしていく」という決意表明をする場。

「なのに、昨今は儀礼的になりすぎて、故人と対話の時間が持てなくなっています」と證大寺の住職で、手紙寺代表の井上城治さんは話します。

 そこで着目したのが手紙です。

「手紙は宛名が明確なので、その人と冷静な気持ちで向き合えることができます。しかも、自分だけで完結する日記と違って、手紙を送り、交わすことで相手と対話ができます」

 ある葬儀での話です。

 ギャンブル好きの父を亡くした兄弟は、「どうしようもない奴」「あの人は父と認めたくない」と当初父を罵倒していた。ところが、手紙を綴ることで、子供の頃、夜眠れない自分をそっと抱いてくれた父の姿を想い出しました。そして「親父みたいな頼りがいのある親父になりたい」「私のお父さんはこのお父さんしかいない」と泣いたそうです。

 どうやら、手紙は亡き人と遺族との遠かった距離を縮める役割をしてくれるのかもしれません。

 葬儀で書く手紙には「お焚き上げ・公開あり」のどちらかを指定できるメモ欄を設けてあり、「公開」に印をした手紙は遺族に渡すようにしています。遺族は生前、故人が家の外ではどんな人だったのか、知らないことも多い。会社の同僚などが手紙に故人とのエピソードを書くことで、故人の新たな顔や人柄を知る貴重な材料にもなっているようです。

手紙を書くことで生きる力を得て元気になれる

 手紙にこだわるのは井上さんの個人的な体験からです。

 現在46歳の井上さんは、23歳のときに父を亡くしました。亡き父は井上さんに手紙を書き残していましたが、死後20年ほどその存在をしばらく気がつきませんでした。ある人生の岐路に立たされたときに、「俺が死んだら手紙を読め」と生前に言われた言葉をふと思い出したそうです。

 「寺の灯を絶やすな」と書かれた手紙を手にしたとき、生前、面と向かって話すことが少なかった父とのは対話が始まったといいます。

 「自分は今なにをしたいのか、迷ったときや、落ち込んでいるときに父に手紙を書きます、生きているときは本音で言えないことも、死んでいるからこそ正直に語り合える。すると、『こうしろ』と答えをもらった気持ちになり、自分をしっかりと取り戻せます」

 確実に、亡くなってからの方がよく話していると井上さんは笑います。

 ただ、こうしてしたためた手紙をそのまま引き出しに入れたままだと、日記を書くのと変わらなくなってしまう。そこで、手紙をお焚き上げする「手紙参り」の仕組みを思い立ったわけです。

「手紙寺」(千葉県船橋市大神保町1306)には、便箋、封筒、筆記用具はもちろん、お茶やコーヒーまで用意されていて、手紙をリラックスして書ける環境が整っている。

 活動を本格的に広げようと、2017年には千葉県船橋市で所有する霊園内に「手紙処(てがみどころ)」というラウンジを併設した建物を作りました。中に入ると、暖炉があり、ここで毎月第4日曜に手紙のお焚き上げをしています。また、便せん、封筒、筆記用具なども常に用意し、訪れた人がいつでも手紙を書ける環境を整えています。

 「自分のことをよく知っている亡き人に向けて手紙を書くことで自分を振り返る。それでその人が生きる力を得て、元気になれる」と井上さんは手紙の可能性を語ります。

 

 ちなみに、手紙寺オリジナルの「手紙寺郵便カード」(3枚入り500円)を使うと、ついているQRコードから自分のメールアドレスが登録できます。すると、手紙が手紙寺に届いたときと、お焚き上げが完了したときにその旨の通知をメールでもらえます。お焚き上げの際に、僧侶が読み上げる名前も記すこともできます。

手紙寺  〒274-0082 千葉県船橋市大神保町1306