元文科省事務次官・前川喜平氏の印象操作を再考する |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

元文科省事務次官・前川喜平氏の印象操作を再考する

印象操作 実践編「メディア・コントロール」

政治家や官僚たちの不適切な発言や不正問題が明らかとなり、閉塞感が続く日本の政治——。憲政史上最長が見えてきた安倍首相。政治家・安倍晋三がここまで「強い」理由はどこにあるのか? また、安倍政権のどこが問題なのか?  書籍『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著)より、政治家・安倍晋三を考えます。

印象操作 実践編「メディア・コントロール」

 印象操作という言葉を多用していた安倍官邸が、メディアを使った「印象操作」を行ったように見えるのが、元文部科学省事務次官の前川喜き平さんに関する読売新聞の記事だ。

「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」̶̶
 二〇一七年五月二二日、読売新聞はこう見出しにうたった記事を社会面三段の扱いで大きく報道した。記事は、前川さんが「出会い系バー」に頻繁に出入りしていたとして、「不適切な行動に対し、批判が上がりそうだ」としている。そして、「出会い系バー」について「一般的に女性の側から売春、援助交際を持ち掛け、店は直接、こうした『交渉』には関与しない」と説明していた。この記事は、結果として読者に、前川さんが売春や援助交際に関わっていたかのような印象を与えることとなった。

 報道後の五月二五日、前川さんは記者会見を開き、加計学園の獣医学部新設の認可に関し、「総理のご意向」などと記載された文書が文科省内に「確実に存在している」「公平公正であるべき行政のあり方がゆがめられた」と元事務次官として実名で告発。「あったことをなかったことにはできない」と、証人喚問にも応じる意向を示した。

 当時、加計学園の問題が世間を騒がせていただけに、「首相官邸に反旗を翻した前川氏への個人攻撃だ」「読売新聞は死んだに等しい」などと、世論やメディアからも報道した読売新聞に対する厳しい批判が巻き起こった。

 五月一七日午前の記者会見で、菅官房長官は、「誰が書いたか分からない、そんな意味不明なものについて、いちいち政府で答えるようなことはない」と文書の信ぴょう性を疑問視し、さらに同日午後の会見では「怪文書みたいな文書ではないか。出所も明確になっていない」と、切り捨てた。

 さらに五月二五日の記者会見では、天下り問題が発覚して前川さんが辞任したことについて、
「自ら辞める意向を全く示さず、地位に恋々としがみついておりました」と批判した。
 読売新聞の報道後は、「不正の温床となるような場所に行き、教育者としてあるまじき行為」との批判を繰り返した。

 この「総理のご意向」と記された文書が本物であったことは、その後の再調査で判明した。
「(菅官房長官の)怪文書みたいな文書じゃないか」の発言が再調査を遅らせる大きな原因になったと指摘されるが、国会で野党から文書の確認を問われると、菅官房長官は「現在の認識ではない」とし、事実上、発言を修正した。

 「総理のご意向」文書が初めて報道された当時、文科省内では、複数の職員や幹部が文書の存在を認識していた。しかし、文科省は、共有フォルダーを一個チェックし、幹部職員六人から聴取するだけの簡単な半日調査で終了させており、菅官房長官の発言によって、あえて徹底した調査が行われなかった可能性も指摘されている。

 さらに驚くべきは、二〇一九年三月八日の参院予算委員会で、菅官房長官が再び「怪文書だ」という認識を示したことです。

 立憲民主党の杉尾秀哉議員が、(記者への)質問制限に関連して聞いた。「例えば加計学園問題、総理の御意向文書を怪文書と切って捨てました。文書は本物でした。自分はうそをついても許されて、記者は事実誤認のことは一切聞くなというのは、これはどういうことなんですか」。それに対して菅氏は、「文書についてはそのようなものだと言うことを私発言しましたけれども、実際そのようなものだったんじゃないですか」と答え、さらに「私自身があのときに質問されたときは怪文書のようなものという私は答えをしましたけれど
も、その後について私がこのことを変えたことはなかったと思います」と続けた。

 事実とは何なのか、そもそも論議がなり立たない虚しさを感じさせられる。

 

『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班(佐々木芳郎)著、KKベストセラーズ)より引用

望月衣塑子 (もちづき・いそこ)

東京新聞記者。1975年、東京都出身。慶應 義塾大学法学部卒。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、 日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書 に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』(ともに角川新書)、『追及力』( 光文社新書 )、『THE 独裁者 国難を呼ぶ男 ! 安倍晋三』(KK ベストセラーズ)『権力と新聞の大問題』『安倍政治 100のファクトチェック』(ともに集英社 新書)など。

特別取材班  佐々木芳郎(ささき・よしろう)

写真家・編集者。1959 年生まれ。関西大学商学部中退。 在学中に独立。元日本写真家協会会員。梅田コマ劇場専 属カメラマンを皮切りに、マガジンハウス特約カメラマ ン、『FRIDAY』(講談社)専属契約、『週刊文春』(文藝 春秋社)特派写真記者、『Emma』(前同)専属契約を経 て、現在は米朝事務所専属カメラマン。アイドルからローマ法王までの人物撮影取材や書籍・雑誌の企画・編集・ 執筆・撮影をしている。立花隆氏との共著『インディオの聖像』(講談社)は 30 年のときを経て制作予定。

KEYWORDS:

オススメ記事

RELATED BOOKS -関連書籍-

THE 独裁者 国難を呼ぶ男! 安倍晋三
THE 独裁者 国難を呼ぶ男! 安倍晋三
  • 古賀 茂明
  • 2018.01.26
「安倍晋三」大研究
「安倍晋三」大研究
  • 望月衣塑子&特別取材班(佐々木芳郎)
  • 2019.05.26