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100点は無理だけど、60点主義も切ない。介護本を読んで考えさせられたこと。

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第三十五回

■『看る力』と「60点主義」

 阿川佐和子・大塚宣夫『看る力』は、さらりと読める対談本だ。父・阿川弘之を看取り、認知症の母を世話する阿川さんが、長年、高齢者医療に従事してきた大塚医師と、介護を明るく語り合う。

 ぼくは新米の記者だった頃、阿川弘之さんと仕事でお会いして叱られた経験があり、そんな縁もあって読んでみたところ、うなずく箇所が多かった。

 本の中に「60点主義」という言葉が出てくる。介護の世界は60点でいい。100点をめざすと息切れしてしまうから、息を抜くことが大事。「私、ちょっとズルしてるんだよね。ヒヒヒ」っていうのを持っていると、心に余裕ができる、と説いた言葉である。

 これには大いに共感すると同時に、でもなあ、と思うところもある。

 ぼくの場合は、100点をめざすことなど最初から到底無理だったので、50点で仕方ないと開き直っていた。食事にしても、ひとり暮らしをしていた間ですら自炊したことのない独身男が、毎日、立派な食事を作るなんてできるはずがない。

 週に2日は宅配の弁当を頼み、週に1日はスーパーの弁当。朝ごはんは毎日つくっていたが、メニューは、焼き魚か、スクランブルエッグか、納豆か、野菜炒めか、そのくらい。それしかできなかったからだ。

 その分、全国で評判のお取り寄せグルメや、季節の果物などは、ネットを存分に使って食卓に加えたが、手抜き介護の最たるものだった。60点どころか、30点くらいだったと思う。

 すまないなあと心の中で謝りつつ、父親と母親をひとりでケアするんだから、そりゃ手を抜かないと無理でしょうと開き直り、介護生活に慣れてくると手抜きも上達していった。焼き魚に添える、大根おろしを省く日が増えた。

 お風呂もそうだ。母を自宅介護中、入浴は週に2回だった。1回はデイサービスの施設で入浴させてもらう。もう1回は、ぼくが自宅のお風呂に入れてあげる。

次のページあと10点。

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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