レバノンきっての名門大学。卒業生の進路から透ける、この国のモザイク模様 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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レバノンきっての名門大学。卒業生の進路から透ける、この国のモザイク模様

中東のモザイク国家、レバノンの今⑤

■優秀な人材は、故郷を離れ世界へ

 更に面白い統計として、学生の男女比がコントロールされており、ここ数十年は52%が女性で、48%が男性だという。ちなみに、宗教や奨学金、ファイナンシャル・エイドが、合否の判定に影響することは、一切あり得ないという。こうした背景により、王族の子息から貧民街で生まれた子供まで、実に多種多様な人材を惹きつける。そしてここで学んだ若き才能は、世界中へ向けて飛び立って行くという。学生の8割がレバノン国籍保持者ながらも、卒業後にレバノンで就職する者は、非常に少ないという。

 

 色々な意味での「政治家」、「役人」、「貴族」がこの国を汚している現実は、優秀な大学生の目には明らかだ。流暢な英語を話し、それ以外の複数言語も話せるこの大学の学生達は、それぞれの科目で世界中から引く手あまた。こうした現状から、頭脳流出を嘆く声があるかと思うと、実はそうではないという。

 卒業生の多くは、レバノンに家族や親戚が住んでいる為、海外での就職後、国へ仕送りを始める。2014年には、GDPの実に17.8%が海外からの送金という、面白いデータも。勿論、この中にはマネーロンダリングの標的となった振込もあるが、AUB卒業生の多くは、その後の人生で、レバノンで家を購入するなどして、レバノン経済に大きく貢献しているという。優秀な人材が国を出ていき、逆にお金が国へ戻って来る。

 こうして、高度な教育を受けた若者が、「完成品」として海外へ移民として旅立っていくかと思えば、隣国のシリアからは、多くの子供たちが「難民」としてやってくる。幼くして親を亡くし、正に命からがらで国を去る、シリア難民が大量にレバノンへやってくる。教育・医療と、この国の財政を圧迫するシリア難民がいるかと思えば、レバノンを去って行ったアウトバウンド移民が、間接的にこうした難民を、経済的に支える。移民と難民の出入りという点で、微妙なバランスの上に成り立つ、レバノンというモザイク国家。この国の将来は、一体どこへ向かうのだろうか?

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竹鼻 智

たけはな さとし

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住。ITコンサルタントとジャーナリストのフリーランス二足の草鞋を履きながら活動し、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「Number」(文藝春秋)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、現地からの情報を日本へ向けて発信。BEST T!MESでは、イングランド代表HC、エディー・ジョーンズ氏の連載「プレッシャーの力」の構成を担当。


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