早すぎたクオリティマガジン『NOW』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」23冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」23冊目
子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【23冊目】「早すぎたクオリティマガジン『NOW』」をどうぞ。

【23冊目】早すぎたクオリティマガジン『NOW』
当連載では、原則として自分がリアルタイムで見てきた(あるいは関わってきた)雑誌を取り上げている。タイトルに「体験的」と付いているのは、そういう意味だ。ただし、今回だけはちょっと例外。存在を知ったときには、とっくに休刊していた雑誌の話である。
もう10年以上前のある日、神保町の古本屋で一冊の雑誌に目が留まった。映画『エマニエル夫人』のような雰囲気の金髪白人女性の写真が表紙で、『写楽』などと同じ大判A4サイズ。キャッチフレーズは「男の雑誌」で、いわゆる男性ファッション誌のようだが、写真もデザインもやたらとカッコいい。
表紙には「No.27 夏の号」とあるだけで、いつの雑誌かパッと見わからず法定文字(発行日や通巻号数などを小さく表示したもの)を確認したら、なんと「昭和50年6月20日発行(年4回発行)」とあった。西暦でいえば1975年。私が小学5年生のときである。
それは見たことないのも当然だ。そんな時代に、こんなイカした雑誌があったのか、と素直に驚く。値段のほうは驚くほどでもなかった(定価480円、売値は1000円とか1500円ぐらいだった)ので、その号と棚にあったもう一冊(No.25 冬の号)を即買いする。それが私と『NOW』の出会いだった。

今では『NOW』なんて誌名はダサく映るが、【11冊目】『CMナウ』の項で述べたとおり、70年代の「ナウ」はマジでナウかった。27号の巻頭カラーはファッショングラビア。おそらく当時の最先端と思しきリゾートシャツをまとった男たちがポーズを決める。続くモノクロのコラムページ「RIGHT NOW」では、オピニオン、スポーツ、クルマ、ミール(食べ物)、ガールといったコーナー別に、雑多な記事が並ぶ。
ピープルのコーナーでは、草刈正雄、常盤新平、亀井俊介ら、同誌に縁のある人物の近況を紹介。そのうちの一人、パリ在住のカメラマン・新正卓について次のような記述がある。
〈姉妹誌「装苑」「ハイファッション」に毎号パリで撮影の見事な写真を掲載中。今号の本誌表紙は氏独特のエマニエル夫人のイメージで、モデルを探して撮ったと言ういわくつき作品〉
なるほど、表紙はやはりエマニエル夫人を意識していたのだ。映画『エマニエル夫人』は前年(1974年)12月公開で一世を風靡した作品であり、まさに旬のネタだった。というか、表紙周りに出版社名の記載がなかったが、『装苑』『ハイファッション』の姉妹誌と言われて奥付を見れば、発行は文化出版局。それはオシャレなはずである。