『BRUTUS』おまえもか!【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」22冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」22冊目
子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【22冊目】「『BRUTUS』おまえもか!」をどうぞ。

【22冊目】『BRUTUS』おまえもか!
本稿執筆時点で一番最近買った『BRUTUS』(マガジンハウス)は、1024号(2025年2月15日号)だ。特集は「伝える力。」。ディック・ブルーナのミッフィーが表紙を飾っている。その前に買ったのが1021号「理想の本棚。」、もうひとつ前が1017号「猫になりたい。」で、さらに遡ると999号「理想の本棚。」、982号「信頼できる店の探しかた」、977号「机は、聖域」、976号「それでも本を読む理由。」、937号「やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない」、936号「猫になりたい」を買っていた。とりあえず、本と猫に弱いということがよくわかる。
逆に言えば、その間に買わなかった号がたくさんあるわけだ。マガジンハウス公式サイトでバックナンバーを確認してみると、「ああ、買わなかったな」という記憶が甦る。アウトドアや旅行に興味がないので「釣りの入口。」「冒険者たち。」「山を、歩こう。」なんて特集はまず買わない。「いま、バンコクに行きたい理由。」と言われても別に行きたくないのである。「星野源と、音楽と。」「珍奇植物」「珍奇昆虫」「春に欲しい、大人の服。」「本当においしいアイスクリーム」「おとなの古着。」「サウナ、その先の楽園へ。」「本当においしいドーナツ」なども、書店でパラパラ見るだけで買いはしなかった。
ほかにも、「NHKのつくりかた」「センスがいい仕事って?」「睡眠空間学」「大人になっても学びたい!」「器の新時代。」「だからゴルフが好きなんだ。」「いまこそ、カクテル。」「何度でも観たい映画。」「通いたくなるミュージアム」「みんなの農業。」など、さまざまな(買わなかった)特集がある。「特集・夜」「やさしい気持ち。」といった抽象的なテーマもちらほら。定番的な企画はいくつかあるが、毎号全然違うジャンルを扱っている。
これで月2回刊というのは相当大変なはずで、編集スタッフには頭が下がる。一方で、こうもテーマに幅があると、私と同様「たまに買うだけ」の読者が多くなり、固定読者が付かないのではないか……と、よけいな心配をしてしまう。とはいえ、1000号を超えてなお人気雑誌としての地位をキープしているのだから、それこそよけいなお世話かもしれない。
『BRUTUS』の創刊は、1980年5月発売の7月号。まだマガジンハウスが平凡出版だった頃である。3号目までは「プレゼンテーション・イシュー」として月刊で、4号目から月2回刊になった。
創刊号の印象を一言でいうなら「饒舌」だ。表紙からして〈男たちの時代が変るとき、いつでも1冊の新しい雑誌が登場してきた。よりアクティヴに、より悦楽的に生きようと思っている男たちに読んでもらいたい………〉〈ベッドを離れた瞬間から、また再びここちよい眠りに戻るまで、男たちの楽しかるべき日々のあらゆる要素が、この1冊の雑誌の中にはある〉と主張が強いし、物理的な文字量も多い。

巻頭言でも、雑誌についてしっかり説明する。
〈我々が新雑誌の創刊を宣言すると同時に、すぐにさまざまなリアクションが起り、それも相当な手ごたえであることが我々にも感じられた。(中略)BRUTUSは新しいタイプの中年雑誌なのかい? という質問が、とりわけ多かったのだが、ここであらかじめ断わっておきたい。BRUTUSは無世代の、つまり男として生きる術を心得た、あらゆる男たちのために編集される。/社会的な年齢に達し、打ち込める仕事を持ち、向上心のある男たちの、より良きマニュアルとして、この雑誌が利用されれば幸いである〉
そして、第一特集「目を覚ませ!ブルータス」扉のリード文は次のように謳い上げる。
〈我々がこのファースト・イシューでお届けするのは、まっとうに生き、仕事にも楽しみを見出し、遊ぶことにも熱心な男たちの日常の風景そのものである。(中略)働き者として定評のある日本男性は、その働きの割に生活の楽しさを享受していないのではないだろうか? それこそ我々がこの雑誌を世に送り出す最小限の理由である。我我は勲章をもらってしまう文化よりも、デパートで買える文明について語っていくだろうし、日常を豊かなものにしようと鼻歌まじりに考えている男について書くだろう。だから『ブルータス』は、より悦楽的に生きようとするすべての男たちに捧げられる〉