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振り返ればそこに……【森博嗣】新連載「道草の道標」第7回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第7回


森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。森先生のエッセィを読み続けたい。なぜなら、自分の内から湧き上がる力を感じられるから。どれだけ道に迷い込み、彷徨ったとしても、諦めず前に進んでいけることができるから。珠玉の連載エッセィ第4弾「道草の道標」。第7回は「振り返ればそこに……」


 

 

第7回 振り返ればそこに……

 

【近況とご質問への回答】

 

 庭園内にあるゲストハウスのサンルームの修繕工事を進めている。1週間くらいかかるかな、と思って始めたものの、予想以上に難しい部分があって、手間取っていた。いちおう、2週間でほぼ完了となり、腐朽していた柱を3本取り替え、屋根の透明ポリカーボ板も新調。内側と外側両方のペンキ塗りの作業がまだこれからで、こちらは長女が担当。

 工作室では、小さなエンジンでモータを回して発電する実験を行なっている。主な作業は細かい部品を作るために旋盤を回すのと、万力に材料を挟んでヤスリをかける時間。だいたい1時間ほどで疲れるか飽きるかで、また書斎に戻ってコーヒーを啜る。

 日もだいぶ低くなって、すっかり秋の空気に包まれた森には、朝夕霧が立ち込め、夜中はその霧で濡れた樹の葉から水が落ち、地面の苔を湿らせる。日中は青空と眩しい日が間接的に感じられ、庭園鉄道に乗っていても、つい顔が上を向く。

 今回は最初から質問にお答えしましょう。

 まずは小説についてのご質問。「あまり小説は読まないとは聞いていますが、年に2冊ほどだとか? その年の2冊は何を読まれましたか?』

 あまりではなく、まったく読みません。ここ15年以上1冊も読んでいません。例外は、仕事で解説を頼まれた場合で、過去に2例くらいあったでしょうか。2冊というのは、その例外を数えたものです。

 「犀川先生が、非科学的な話はだいたい医学部だ、と話されていて、当時はけっこうショックでした。森先生は実感、実体験として、医学部の人間は非科学的だと思われたのでしょうか。いわゆる理系のくせに非科学的な人間が医学部に進むのか、医学部にいると非科学的になってしまうのか、森先生の考察を聞きたいです」

 犀川先生ほど極端ではありませんが、医学部や工学部は実学であり、理学部の数学や物理学に比べると非科学的だとは思います。理由が理論的に説明できないものでも、多数の実験結果に基づいて問題が解決されたことにしてしまう場合が多々あります。

 「常に自分で自分を認められるようになりたいです。他人に親切にできたと思ったときや、誰かの役に立てたと感じたときは、自分の価値を見出せますが、そうではなく、他者を介さずに自身の承認欲求を満たすためにアドバイスをいただけないでしょうか」

 この質問をすること自体が他者依存です。しかし、全面的に悪いわけではありません。少しずつ自分の判断・評価を取り入れること。それには、自分で考えた解決策を試してみること。自分に親切にして、自分に認めてもらいましょう。

 「最近の森先生の話題は年代のギャップを感じさせることが多くなってきました。意図的な指向・演出なのでしょうか?」

 意図的です。他者に向けて仕事で書いているのですから当然です。もし報酬もなく自主的に書いた文章だとしたら、人に見せたりしません。それどころか、自分のためだけの文章を書いたりしません。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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