詐欺師を高度な会話で圧倒しながら、耳も貸す。ダボス会議で見た、成功者たちの恐るべきバランス【林直人】
異能の起業家・林直人 「ダボス会議」裏側潜入記 #08

スイスのダボスで毎年1月に行われる「ダボス会議」。その名前は教科書にも載っているぐらい有名だ。しかし、そこに“オモテ”と“ウラ”があることは知られていない。異能の起業家・林直人氏がダボスからの現地潜入レポート!全10回を集中連載する。第8回では、この会議に紛れこむ怪しき詐欺師たち、そして彼らと絶妙なバランス感覚で対峙していた成功者の資質に迫る。
■成功者の会話からパージされる詐欺師
ダボス会議の舞台裏には、資本主義の最前線で熾烈な階層構造が広がっている。そこには、真の成功者たちと詐欺師たちが入り混じりながら、見えない壁が存在しているのだ。
参加者の中には数千億円の資産を持つ者もいるが、英語すら話せない大富豪が、他の成功者と自然に打ち解けている姿が印象的だ。奇妙な現象だが、人間というものは、似たような経済的バックグラウンドを持つ者同士で引き寄せ合う。成功者のコミュニティは言葉を超えた共通認識で結ばれ、そこに詐欺師が入り込む余地はほとんどなくなっている。
この地に詐欺師たちは当然のように世界中から集結する。名刺には「総理大臣アドバイザー」や「大企業特別顧問」など、いかにも信頼を誘うような肩書きを並べ、いざとなれば有名な投資家や政治家の実名を挙げてくる。
しかし、そんな小手先は真の成功者には通用しない。彼らは自然体でかつ高い視座で、ビジネスや資産管理の高度な話を進める。相続税や国際税制の細かな仕組みなど、真の資産家にしか通じない話題に及ぶと、詐欺師たちは会話に加わることができなくなる。詐欺師たちは、次第に孤立し、会場から姿を消すのだ。
もちろん詐欺師の中にもレイヤーがある。たとえば、戦前の日本軍が隠したという架空の資産話を用いて巨額の金を騙し取る“M資金詐欺”で名を馳せたようなツワモノもいる。彼らは、最初の一言でメッキが剥がれる二流、三流の詐欺師とは違う。しかし、一流詐欺師たちでさえ、数百億円クラスの真の成功者が集うダボスの核心部には届かない。
このような現実を目の当たりにしながら、参加者たちはダボスの価値を再確認する。ここはただの国際会議ではない。資本主義社会の最先端を行く精鋭たちが、リスク管理、資産運用、次なるビジネストレンドについて密に情報を共有する場なのだ。
成功者たちはとても慎重である。単に資産を築くだけでは生き残れないことを理解している。戦争や経済的混乱に備え、世界各地にセーフハウスやビザを確保することを当たり前のように行っている。年間1000万円を超える学費を支払ってボーディングスクールに子供を通わせることなども、「必須の投資」とされている。