火砲牽引、兵員輸送、そして自走砲化までされた非装甲ハーフトラックの系譜 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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火砲牽引、兵員輸送、そして自走砲化までされた非装甲ハーフトラックの系譜

電撃戦を支えたハーフトラックSd.kfz.251②

■2系統に分かれるドイツ陸軍のハーフトラック

写真を拡大 非装甲の8tハーフトラックSd.Kfz.7によって牽引される8.8mmFlak18高射砲。同車の車体後部の荷室には弾薬や各種装備品の搭載が可能だった。8.8mm高射砲の型式が進化してもSd.Kfz.7とのコンビは終戦まで変わらなかった。

 ドイツ陸軍のハーフトラックは、非装甲型と装甲型の2系統に分かれる。

 実のところ、当初は戦場の泥濘や荒れ地といった不整地でも、野砲や対戦車砲を牽引してスムーズに陣地への進入や撤収ができるよう、装輪式牽引車のトラックよりも不整地踏破性が高いハーフトラックを使用することが考えられた。演習場のような平坦な地形に砲兵陣地が構築できるケースなど、そうそうないのが実戦場の現実だからだ。

 

 そこで、まずは牽引可能な重量別に1tから18tまでの各種ハーフトラックが開発された。これらはいずれも非装甲で、火砲の牽引、戦車も含む故障車両の牽引、一般的な歩兵輸送などに用いられた。

 例えば、1tハーフトラックSd.Kfz.10は、単装20mm対空機関砲や5cm対戦車砲Pak38などの牽引に用いられた。8tハーフトラックSd.Kfz.7は、ドイツ自慢の8.8cm高射砲の牽引車として超有名だ。製造メーカー名の略称のファモーの愛称で呼ばれることもある18tハーフトラックSd.Kfz.9は、ティーガーIのように回収すべき戦車が重過ぎて1両では手に余る場合は2両、3両と重連化され、故障した戦車の牽引などに利用された。

 また、一部の非装甲ハーフトラックは部分的な装甲を施され、火砲を搭載して自走砲化されている。

 例えば、1tハーフトラックからは単装の2cmや3.7cmの対空機関砲を搭載した対空自走砲、5tハーフトラックからはソ連軍から鹵獲した76.2mm砲を搭載した対戦車自走砲、8tハーフトラックからは4連装2cm対空機関砲や3.7cm対空機関砲を搭載した対空自走砲、12tハーフトラックからは8.8cm高射砲を搭載した対戦車自走砲などがそれぞれ造られ、いずれも実戦に投入されて相応の戦果をあげている。

 これら非装甲ハーフトラックの運用における、特に兵員輸送時に発揮されたトラックよりも優れた不整地踏破性が、戦車への追随を可能とすると判断され、「鉄火場の装甲タクシー」が造られることになった。

 かくして、1tハーフトラックSd.Kfz.10と、3tハーフトラックSd.kfz.11の車台を利用した、サイズ違いの2種類の装甲ハーフトラックの開発が行われた。両車とも、弾片やライフル弾程度の威力のものから乗員を守るため、傾斜した装甲板で構成された車体を備える。

 とはいっても、車体全体にライフル弾に対する完全な抗堪性があるわけではなく主要部のみなので、ライフル弾を使用する機関銃の掃射をまともにくらうと、部分的に貫徹されてしまうケースも生じた。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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