「30問30答」スペシャルバージョン! 新刊『壁』を発売した野村克也氏がWBC日本代表の戦いを振り返る。『孫子の兵法』にある言葉、「敵を知り、己を知れば百戦殆うからず」。そのためにはスコアラーとの連携が必要不可欠。日本代表にはそれがあった、と分析する。

確実に築かれていた選手たちとスコアラーの信頼関係

 野球は団体競技ですから、チームの誰もが“フォア・ザ・チーム”の精神を持って、勝利という同じ方向を向いていなければいけません。

 特に、短期決戦ではペナントレース以上に、選手や監督、コーチ、スタッフが一体になることが求められます。

 そのうえ、WBCは国際大会です。普段から戦っている相手ではないですから、当然データが少ない。

 そのため、スタッフの中でも、スコアラーがいかにデータを収集して分析し、選手に的確に指示できるかということが重要になってくるんですよね。

 遠い昔から、『孫子の兵法』の教えとして「敵を知り、己を知れば百戦殆うからず」という言葉があるじゃないですか。戦いに勝つためには、まずは敵と味方のことを熟知しておくことが大切なんですよ。

 そんなスコアラー(志田宗大)と選手とのやりとりで印象に残っているのが、2次ラウンドのキューバ戦ですね。

写真/高橋亘

 1点ビハインドの6回裏、1死一二塁でキューバのピッチャーが交代したんですが、このとき、次のバッターの小林誠司(読売ジャイアンツ)とスコアラーがベンチで話しているんですよね。そして、小林は初球のスライダーを叩いて、同点タイムリーとなりました。 スコアラーは事前に相手チームを偵察していますから、そのピッチャーがスライダーを投げることが多いという特徴を小林に伝えたんでしょうね。データを見事に活かした結果でした。

 さらに、5対5で迎えた8回裏。内川聖一(ソフトバンクホークス)の犠牲フライで1点勝ち越した後、二死1塁で打席に立ったのが山田哲人(ヤクルトスワローズ)でした。

 ピッチャーは小林が同点タイムリーを打ったときと同じだったんですが、山田もまた、初球を思い切りよく振り抜き、試合を決める2ランを放ったんですよね。

 その打ち方を見ると、明らかにスライダーが来るのを読んでいましたね。バッティングはタイミングですから、もしストレートを待っているところにスライダーが来たとしたら、右バッターがあそこまで一気にレフトスタンドへ打球を運べないと思います。だから、山田もベンチでスコアラーからデータを聞いていたんでしょうね。

 実はバッテリーにとって、初球は非常に難しいんです。初球に対して、打者がどんな反応をするかで、だいたいの組み立てがイメージできるんです。打者は必ず何らかのヒントを与えてくれるものなんですよ。

 その初球を叩かれるのは、キャッチャーにとっては作戦を立てる前。まさに出鼻をくじかれるようなダメージが残るでしょうね。

 それにしても、小林も山田も、初球から躊躇なくバットを振り抜けたのは、スコアラーを信じているからこそでしょう。

 それだけ確実に選手たちとスコアラーの信頼関係が築かれていたというわけです。それはつまり、勝利に向かって、チームが一丸となっていた証でもあるんでしょうね。

明日の第二十七回の質問は「Q.27 自身の経験を踏まえ、どのポジション出身者が監督に向いていると思いますか? 今後監督になってほしい人は?」です。