「30問30答」スペシャルバージョン! 新刊『壁』を発売した野村克也氏がWBC日本代表の戦いを振り返る。キャッチャー出身者が評価した小林誠司のナイスプレーとは?

小林の「一番自信のある球をど真ん中に投げよう」

 当初は日本代表に対する評価は決して高くなかった。私はキャッチャー出身ですから、同じキャッチャーである小林誠司(読売ジャイアンツ)に対しては、特に厳しい視点で見てしまうのは仕方のことないことなんですよ。

 ですから、最初に、フォークの捕り方について指摘した。

 正式に構えたらフォーク。片足を引いて腰を引いているときは、フォークは来ない。フォークはワンバウンドで来る確率が高いから気持ちがわかるが、相手に察知されればメッタ打ちにされる心配さえある。そのことを指摘した。

 でもそれは、私が監督時代と同様、マスコミを通してのアドバイスと受け取ってほしいという気持ちもあったんだがね。

 小林への評価は、徐々に変わって行った。とくに投手のリード面。

 私は自分の長年の経験から、常に「キャッチャーは守備における監督の分身である」と言い続けてきました。

写真/高橋亘

 だからこそ、小林がどんなプレーをするのか常に注目していました。特に印象に残ったシーンを挙げるとすれば、1次ラウンドのオーストラリア戦ですね。

 5回裏1死一二塁の場面、球数制限の関係で降板した菅野智之(読売ジャイアンツ)に替わって、マウンドに上がったのが岡田俊哉(中日ドラゴンズ)だった。

 しかし、岡田は緊張のせいか制球が定まらず、ストレートのフォアボールで満塁にしたうえ、次のバッターにも2球連続でボールというピンチを招いてしまったんだね。

 そのとき、小林がマウンドに向かったんですよ。

「一番自信のある球をど真ん中に投げよう」

 放心状態の岡田に対して、そんなふうに声を掛けたそうですが、そのタイミングが実によかった。

 それがちょっとした息抜きになり、岡田をある意味開き直させることにもつながりましたから。その結果、本人が自信を持っているストレートを投げ、ダブルプレーに打ち取ることができた。

 キャッチャーは女房役とも言われますが、プレー中のピッチャーに対する声掛けって、非常に大事なんですよね。それこそ、内助の功が求められるわけです(笑)。

 私も現役時代、ピンチの場面になると、よくマウンドに駆け寄りました。

「自分のすべてを出して打たれるならしょうがないよ、勝負なんだから。目いっぱい来いよ、目いっぱい」というようなことを、ピッチャーによく言ったものです。

 ただ、タイミングを間違えるとあまり効果がない。ピッチャーの性格を把握していないと逆効果になることさえある。マウンドに行き過ぎて、嫌がられることもあるからね。

 だから、性格や精神状態に合わせて、マウンドに行くタイミングだけではなく、そこでの言葉や態度も使い分けなければいけないんだよ。そのためには、普段からコミュニケーションを取っておくことが非常に重要なんだね。

 さらに小林がよかったのは、ベンチに戻ってからも、岡田に声を掛けに行っているところです。

 そのとき、笑顔を見せながら、「よくやった」というふうに背中を何度か叩いていましたよ。

 些細な行為だけどね、こうした気づかいが重要なんだ。ピンチを切り抜けたピッチャーを激励する。そのことが自信にもつながるものなんだ。

 WBCでの小林は、女房役としてのキャッチャーの仕事をしっかりとこなしていたと思いますね。

 こうした私独自の視点で見たWBCの話をもう少し話してみようかね。

明日の第二十五回の質問は「Q.25 熱戦が続いたWBC。日本代表の中で特に目に留まった選手は誰ですか?」です。