「東大理Ⅲより難しい」―“慶應義塾幼稚舎”の入試を評するときによく使われる表現だ。ここでいう「理Ⅲ」とは東京大学理科Ⅲ類。全国に82ある医学部の中でも、断トツの偏差値を誇り、国内の大学入試で最難関とされる東大医学部である。その入試よりも難易度が高いと評される教育機関である〝慶應幼稚舎”の“お受験”。授業では、まだまだ教育現場では実現されていない「タブレット」の導入がされているという。(『慶應幼稚舎の秘密』より引用)
 

 情報科は専科科目であり、同じ専科教員が教えるので、同学年の4クラスでカリキュラムの内容があまり異なることはなく、ほぼ横並びの授業が行われる。

 一方、担任が教える国語、社会、算数、総合などは前述したように、教員の考え方で授業内容が大きく変わってくる。担任を務める教員に、幅広い裁量権が与えられているからだ。その権限を生かし、近年、実験的な授業を試みている教員がいる。情報科の創成期から専科教員として同科の発展に尽力し、その後、担任を務めるようになった鈴木二正教諭だ。

 担任に就いた鈴木教諭が始めた実験的授業とは、国語、算数、総合でタブレット端末を導入したことだった。それも、数台の話ではない。なんと、担任するクラスの生徒全員に、1年生のときからひとり1台のタブレット端末を持たせたのだ。そして、1年生で18時間、2年生で13時間の計31時間のカリキュラムを組んだのである。

 生徒のタブレット端末の操作習得度に合わせ、段階をレベル1〜3に分け、授業を進めた。鈴木教諭は著書『AI時代のリーダーになる子どもを育てる』(祥伝社2018年刊)の中で、その内容について、次のように説明している。

 レベル1については、「新しい文房具であるタブレット端末をどう使っていくのかというルールや、基本的操作を徹底的に習得してもらうことを狙いました。タブレット端末はどこに置いてあるのか。自分のタブレット端末を、どう取り出し、片づけるのか。(中略)

 これらを教えるために、さまざまな約束事を守ってもらうと同時に、カメラ機能、お絵描きアプリ、漢字ドリルや計算ドリルといったアプリを活用しました」という。

 生徒がタブレット端末を「自分の大切な文房具」と認識できるように、自己管理ができる環境を構築。そのために、鈴木教諭が自ら、生徒36人分の充電環境の備わった木製の保管庫を手づくり。そこにタブレット端末を収納できるようにした。

 レベル2では、「個人学習で一通り習得した基本的なスキルを、グループ学習で展開」。グループでさまざまなアプリを使って、お話づくりを行い、発表する場も設けた。

 レベル3では、生徒たちは「もはや教師の手助けがなくてもタブレット端末を使いこなせるスキルを身につけています」という段階に入る。「教育向けSNSを利用し、クラス全員が投稿を行い、その情報を共有し、ブラッシュアップ(上を目指す)し合うという協働学習を実施」した。

 低学年のうちにタブレット端末に触れる機会を増やしたことで、こうしたICT(情報通信技術)機器を臆せず使いこなせるようになるわけだが、メリットはそれだけではない。

 鈴木教諭は前出の著書の中で、こう語っている。

「低学年のうちに活用ルールを徹底することで、高学年になったいまも、学習で使用する以外には児童が勝手に持ち出してゲームアプリで遊んでしまうようなことは見られません。(中略)授業開始後にタブレット端末を活用する場面になると、各自がタブレット端末を取り出す・片づけることも児童が主体的に、効率よく行うことができています」

 こうしたタブレット端末を自由に使えるようにすると、子どもがゲームにばかり没頭するのではないか、というのは父兄が真っ先に心配することだ。しかし、それはまったくの杞憂だった。鈴木教諭は「子どもたちを信用して大丈夫」と強調。そして、「子どもたちのほうが教員よりも操作の面や柔軟性の面で先を行っています。いわゆるデジタルネイティブの子どもたちなのです」と結論づける。