■二つの経済政策

 では、政府は、デフレ脱却のために何をすべきなのでしょうか。

 すでに述べたように、政府は、デフレを阻止し、マイルドなインフレを目指すべきですが、インフレも行き過ぎると良くない。インフレが行き過ぎるようならば、政府は、インフレを阻止する政策を打ち出さなければなりません。

 要するに、政府は、デフレにならないよう、インフレになり過ぎないよう、経済政策を操って、うまく舵取りをするのです。

 では、インフレ対策とデフレ対策とは、それぞれ、具体的に、どのようなものなのでしょうか。

 まずは、インフレ対策から、みていきましょう。

①インフレ対策

 インフレとは、「需要過剰/供給不足」の状態です。ですから、インフレを止めるためには、需要を減らし、供給を増やす必要があります。

 では、需要を減らすには、政府は、何をしたらよいでしょうか。

 まず、政府自身が、「需要」すなわち「消費」と「投資」を減らすことです。要するに、財政支出を削減して、「小さな政府」にするということです。

 また、政府は、民間の消費や投資を減らすこともできます。民間の支出に対して課税をすればよいのです。例えば、消費税を増税すれば、人々は消費を減らさざるを得ないでしょう。

 こうして、政府が支出を削減し、増税をすれば、財政は健全化します。財政健全化とは、需要を抑制する政策なのです。

 また、中央銀行(日本銀行)が金利を引き上げれば、企業は銀行から融資を受けにくくなり、投資を控えざるを得なくなります。消費者も、ローンを組みにくくなる。金融引き締め政策は、需要を抑制するということです。

 インフレは、供給不足の状態ですから、供給力を増やすという政策もまた、インフレ対策です。つまり、企業の生産性を向上させ、競争力を強化するのです。

 そのために有効な政策は、市場における企業の競争を活発にすることです。

 具体的には、規制緩和や自由化によって、より多くの企業が競争に参加できるようにすることが有効です。また、国の事業は民営化し、市場での競争にさらすと、より効率化し、生産性が向上するので、供給の増加が期待できます。

 この規制緩和、自由化、民営化は、一国内だけではなく、グローバルに行えば、競争はさらに激化し、企業の競争力は強化され、生産性のいっそうの向上が期待できます。

 国境の壁を低くし、ヒト・モノ・カネの国際的な移動をより自由にする、いわゆるグローバル化は、供給力を強化するインフレ対策なのです。

②デフレ対策

 デフレは「需要不足/供給過剰」の状態であり、インフレの反対の現象です。

 ということは、デフレ対策は、インフレ対策を反対にしたものになるはずです。つまり、需要を促進し、供給を抑制することが、デフレ対策です。

 具体的に見ていきましょう。

 まず、政府は、政府自身の消費や投資といった需要を増やさなければなりません。例えば、社会保障費や公共投資を拡大するなどして、財政支出を拡大するのです。要するに、「大きな政府」にするということです。

 また、政府は、民間の消費や投資の増大を促進する必要があります。そのためには、減税が効果的です。例えば、消費税は減税し、企業に対しても投資減税を行うのです。

 政府が財政支出を増やし、税収を減らすということは、財政赤字を拡大するということです。財政再建は需要を抑制するインフレ対策なのであれば、その反対に、財政悪化は需要を拡大するデフレ対策だということです。

 また、中央銀行は、金融緩和を行い、個人や企業が融資を受けやすくすることが肝要でしょう。

 こうした拡張的な財政金融政策が、需要を拡大するデフレ対策です。

 デフレは供給過剰の状態ですから、供給を抑制することも、デフレ対策として効果的です。

 デフレの時に企業の生産性が向上すると、供給過剰がさらにひどくなってしまいます。ですから、デフレの時には、企業の生産性は向上させない方がよい。したがって、企業間の競争は、むしろ抑制気味にすべきです。

 具体的には、規制緩和や自由化はしない方がよい。むしろ規制は強化し、事業は保護して、多くの企業が市場に参入できないようにして、競争を抑えるべきです。企業はお互いに競争するよりもむしろ、協調した方がよいでしょう。

 民営化も、それが競争を激化させるのであるならば、しない方がよいでしょう。

 もちろん、どんな事業でも、すべて国営化すべきだというわけではありません。しかし、無くなってしまうと国民が困るような公益的な産業や、あるいは倒産すると大量の失業者が出てしまったり、倒産の連鎖を起こしたりしてしまうような大規模かつ重要な産業であるならば、一時的に国営化することも必要になるでしょう。

 デフレのときは競争を抑制すべきなのですから、当然のことながら、ヒト・モノ・カネの国際的な移動を自由にするグローバル化は、やめた方がよいということになります。国境の壁で国内市場を保護する「保護主義」は、実は、供給過剰を抑制するデフレ対策になるのです。

 誤解を避けるために補足すると、保護主義についても、「鎖国しろ」とか「全産業を保護しろ」とか言っているわけではありません。例えば、国際競争力のある産業まで保護する必要はありません。

 ここで強調したいのは、保護主義をタブー視すべきではないということです。デフレの時や、失業者が大量に出ている時などは、保護主義は正当化し得るのです。

 このように、インフレ対策とデフレ対策とは、正反対です。

 インフレとデフレは正反対の現象ですから、その対策も正反対になるのは、当たり前のことでしょう。

次のページ 平成不況の原因は明らか