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学歴コンプの依頼者に与えたミッション【中田考のレンタルおじさん】

中田考「レンタルおじさん、始めました」連載第1回

 

■師弟関係を結んだK君へのミッション

 

中田:それで最初のミッションなんですけどね……。結婚しなさい。

 一応確認ですけど、結婚してませんよね?誰かと結婚を約束している相手とかも。いませんね。じゃあ結婚しましょう。俺カリ『俺の妹がカリフなわけがない』(晶文社)にも書かれている通り、日本でイスラームを行う上で一番大切なことは結婚して子供を産むことなんですよ。

 アイシャ(俺カリの主人公)がなぜ結婚相談所をやっているかというとそれがカリフの仕事だからです。「スルタン・カリフは後見人のいない者の後見人である」と預言者ムハンマドが仰せの通り、カリフが日本でなすべきことはまず人々を結婚させることです。

K君:親に改宗した事を言っていないんですが、結婚したら親にも知られますよね?

 

———このあたりでK君は、椅子に座って組んでいた脚を頻繁に組み換えだした。髪や頬を手で忙しなく触り、かつ耳から額にかけて徐々に紅潮しだした。やがて目も虚ろになり、とにかく落ち着きがない。師弟関係を結んだ中田先生に、K君はミッションを真剣に迫られる。相当にうろたえているようだ。が、中田先生は時折容赦なく、気乗りしないK君を真顔でじっーと見つめる。「結婚する」というミッションを促すべく、絶えず論理的に説得を試みていく。

 

中田:どうでしょうね。イスラーム法上の結婚だから、婚姻届なんか出さないからね。日本の結婚は市役所に婚姻届けを提出しますが、イスラームの結婚に日本の役所なんか関係ありません。一緒に住む必要もない。まぁ住みたきゃ住んでいいけど。とにかく仮定のことなんか考えても仕方ないです。

K君:まぁ僕がこの先結婚できる可能性なんてないでしょうけど……。

中田:そうです、絶対にありません。一目見ればわかります。この先成熟して一般的なステップを経て結婚できるとでも思っているならとんでもない勘違いです。できません。さっきも話した通り、自分で相手を見つけて結婚できるようなら私も結婚しろ、などと指示しないわけです。

 今まで出来ていなかったらこれからも出来ないんです。人間の価値は歳を取れば取るほど下がるんです。君の価値は今が一番高いんです。明日になるともっと下がるんです。

K君:相手は僕が(精神)障害者だという事を知っているんですか?

中田:もちろんですよ。知らせなければ詐欺ですから。といっても、障害者であることはそんなに悪いことじゃない。障害者は責任能力がないので、神の前で罪に問われないって事だけじゃなくて、嘘がつけないってことが一番のメリットなんです。要するに他人の気持ちがわからず、言って良いことと、悪いことの区別がつかないので、なんでも口にしてしまう、嘘をついた方が自分の得になる、というシチュエーションが理解できないので、嘘をつけない。

 本当に危険な悪い奴というのは、女にモテる格好、仕草をして美辞麗句を並べ立てて次々に頭の弱い女の子を騙して餌食にするような大学のサークルにいるような連中なのですよね。その点、障害者は嘘をつけないから信用できるんです。

 あなたのツイートを見れば一目で障害者だとわかりますが、相手はそれでも良いと言っているんですよ。こんな相手はもう二度と現れませんよ。この話は基本的にはあなたの為に言っているんです。

K君:普通の日本人の親が聞いたら発狂すると思うんですが?

中田:何が問題ですか? まぁ私と関わっていると聞いて嫌がる親はいると思いますけどね(笑)。

K君:相手に対しての責任とか人生に対する拘束が起きるじゃないですか?

中田:そんなことは相手が考えることです。バカが下手な言い訳をするんじゃない。イスラーム法では、女性の方からは基本的に離婚できないから、女性が結婚を悩むことはあるんです。男性の方は離婚を一方的にできるので、悩む必要はないんです。彼女のために、ハナフィー派に女性が自分から離婚が出来るという条件を婚姻契約で付けられるという少数学説あるので、彼女のために今回はその条件をつけるつもりでいます。彼女の方からも離婚できるようにはしています。そんなことは私がよく考えた上で話しています。

K君:結婚してから後悔するってことはありますか?

中田:私がわかるわけないじゃないですかそんなことは、そもそも今だってやることなすことすべて後悔して生きているんでしょう。将来後悔するとすれば、自分がバカだからであって、結婚したからではありません。

 結婚するのに一番重要なのはバカなツイートをやめるということです。無駄なことは考えない。10年近く前の中学受験の失敗の話とか、下らないツイートをしない。無意味なツイートをするのは承認欲求とか孤独で寂しいとかそういうことでしょ。幻想の空間でそういうことをやっても何の意味もないですから。

 私に対してもそうだけどネットで他の人間に絡まない方が良い。私や私の周りの人間に絡むのもはっきり言って非常に不愉快なんですね。そういうのをやらないために彼女とだけ付き合っていればいいんですよ。

K君:先生は結婚が良い方向に導くことを期待しているわけですね?

中田:そうですね。今が最悪なので、何をやってもこれ以上わるくはならないと思うけれど、良い方向に行けるとすれば、結婚以外にはないでしょう。最初でうまくいく可能性は限りなく低いですが、手当たり次第に試してみて、経験値を積んでいけば、まぐれ当たりで成功しないとも限りません。どうせ放ってたらこの先バカが経年劣化していくだけなので、何をしようと今以上にわるくなることはまずありません。そう思うと気が楽になるでしょう。

 イスラームの一番のメリットは、真実を直視することで、気楽になることですからね。お疲れ様。バイアを結んで、求婚しなさい、との命令に従ったことで、取りあえず最初のミッションは達成です実際に結婚できるかどうかは、アッラーの御心次第です。検討を祈ります。

 

次のページ最後にやっぱり「結婚しなさい」

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中田 考

なかた こう

イスラム法学者

(プロフィール)
中田考 なかた・こう
イスラーム法学者。一九六〇年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。八三年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、二〇代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。近著に『イスラームの論理』、『イスラーム入門』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『13歳からの世界制服』など。小社刊『みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。最新刊『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』(サイゾー刊)が話題に。

 

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