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ハル国務長官が日米開戦へと舵を切った11月26日

シリーズ!日本人のためのインテリジェンス・ヒストリー 「戦争勢力の暗躍と、乗っ取られたホワイトハウス」①

 エヴァンズらは、「このラティモアの公電こそが暫定協定案放棄の引き金であり、日米開戦への道が決されたのだ」と述べています。

 ハル国務長官が十一月二十五日までは暫定協定構想を進めようとしていたのに、なぜ突然翻意してモーゲンソー私案に基づく強硬なハル・ノートを日本側に手交したのか、その経過は今まで明らかになっていませんでした。

 しかし、エヴァンズらによると、ハル国務長官が「中国人が拒絶したから(中略)蔣介石が特別なメッセージを送ってきて、暫定協定が中国人にとって非常に印象が悪いと言ってきたから」暫定協定案を放棄したと自ら語っていたことを、ヘンリー・スティムソン陸軍長官が日記で述べています。一九四六年にアメリカ連邦議会の真珠湾攻撃調査統合委員会公聴会でもこの日記の記述が取り上げられました。

 エヴァンズらによれば、結局、ハルが暫定協定案を放棄した理由として文書に残っているのは、「蔣介石からのメッセージ」だけなのです。

 蔣介石の特別なメッセージとは、ラティモアの公電に他なりません。

 しかし、よく見ればわかるように、この公電は、ラティモアが「これが蔣介石の考えである」と述べたものです。蔣介石自身の言葉ではないのです。
しかも、暫定協定についてラティモアが蔣介石にどう伝えたのかによって蔣介石の反応が左右されたはずですが、どういう伝え方をしたのかも一切わかりません。

 それでも、ワシントンの高官たちは、ラティモアの公電を額面通り蔣介石のメッセージとして扱いました。「ソ連の工作員」であったカリー大統領補佐官が「中国国民党の蔣介石がこう言っている」とアメリカ政府内で大いに強調したであろうことは想像に難くありません。

 なお、ここでエヴァンズらは触れていませんが、ハル国務長官が日米開戦回避から、日米戦争やむなしへと、判断を変えた背景に、ルーズヴェルト大統領の決断があったと見るべきでしょう。ルーズヴェルト政権が日米戦争へと大きく舵【かじ】を切った決断の背景に、蔣介石のメッセージがあったことは確かですが、このメッセージとルーズヴェルト大統領の決断との関係は今後、追及すべき課題でしょう。

(『日本は誰と戦ったのか』より構成)

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江崎 道朗

えざき みちお

評論家。専門は安全保障、インテリジェンス、近現代史研究。



1962年生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフなどを経て、2016年夏から本格的に評論活動を開始。月刊正論、月刊WiLL、月刊Voice、日刊SPA!などに論文多数。



著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社新書)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)ほか多数。



 


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