「志村けんと岡江久美子、他人事だったコロナ観を変えた隣人の死」2020(令和2)年その1【連載:死の百年史1921-2020】第5回(宝泉薫)
連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)
なんにせよ、その死をめぐってさまざまに語られるのは、その人生が世の中に爪痕を残した証しである。たとえば、志村についても「セクハラ芸もやっていた」として、フェミニスト陣営が批判に利用していたものだ。
もちろん、そんな野暮な指摘は少数にすぎない。朝ドラ「エール」では事実上の最終回に彼をワンカットだけ出演させた。たまたま撮れていたという、鏡に映った笑顔を利用して、彼が演じた人物と主人公との心の交流を感動的に盛り上げたのだ。また「志村どうぶつ園」は半年にわたって、彼の生前映像をふんだんに使うことで延命したし、年末には「ドリフ・バカ殿・志村友達大集合SP」(フジテレビ系)という特番も放送された。
要は「死ぬのはいつも他人ばかり」だから、それを利用できるのももっぱら生者の側なのだ。本業の笑いだけでなく、その死が最大の感染対策につながったとされるなど、日本中の他人に利用された志村。それこそがまさしく、国民的人気者としての誉れといえる。
(宝泉薫 作家・芸能評論家)
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