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【甲子園を振り返る】「福島では勝つけど甲子園では勝てない」聖光学院は弱いのか?

11年連続甲子園出場にある葛藤

連勝記録ストップの瞬間

 県大会準決勝の日大東北戦で、それまで積み上げてきた県内での公式戦連勝記録が95でストップした。「マスコミのみなさんにとっては〝事件〟なのかな?」。達観した表情を見せながら、斎藤監督が本音を述べた。

「新チームになったばかりだし、選手には連勝という十字架を背負わせたくなかったから、個人的には連勝が止まってすっきりした。正直、全国に行っても勝てないストレスを抱えている部分もあったからね。これで、気持ちを切り替えて一から出直せるし、子供たちの進化の過程になればいい。勝ち続けるのも大事だけど、負けないと強くならないから」

 聖光学院は、勝ちへの執念、使命感と真正面から向き合うチームだ。

 翌年の夏の決勝では、日大東北に4点リードされながら9回に追いつき、延長11回にサヨナラで福島を制した。斎藤監督は例年、甲子園の切符を手にすると「福島県代表として恥じない戦いをします」と言う。しかし、8連覇を決めたこの年あたりから、その言葉には、強い信念とは別の悲壮感のような感情が見え隠れするようになった。

 14年、そして戦後最長の9年連続甲子園を決めた後には、こう締めくくっている。

「高知で7連覇した明徳義塾さん、和歌山で8連覇した智辯和歌山さんは日本一になっているのに、うちはしていない。全国に出るからには、そこを目指したい。甲子園で下手な試合をしたら、福島県のみなさんや福島のチームに申し訳ないからね」

 全国で勝ちきれないもどかしさ、ストレスを抱えながらも夏にはチームの完成度を高め、選手たちを甲子園へと導く。その結果が11連覇である。それでも、なかには「福島のレベルが低いんじゃないか?」といった疑念の声が、どうしても聞こえてくる。

 決してそうではないのに、である。

 13年に聖光学院の連勝記録をストップさせた日大東北のエース・大和田啓亮は、プロのスカウトから視線を注がれる右腕だったし、今も日大で成長を続ける。同世代の小高工・菅野秀哉は現在、法政大の主戦として東京六大学リーグ通算10勝をマークし、福島の手塚周も立教大に進み、今春の全日本選手権制覇に大きく貢献した。今年にしても、学法石川の尾形崇斗が最速150キロを記録し注目を浴びた。彼らは、合言葉のように「聖光を倒す!」と研鑽を積み、飛躍を遂げてきたのだ。

 福島のレベルは低くなんかない。それは、聖光学院と対峙した選手たちのその後が、何よりの証左となるではないか。

 11年連続での甲子園。その旅路は終わった。しかし、全国制覇への道は続く。

 斎藤監督は常々こう言っている。

「日本一になるためには、まず挑戦権を得なきゃいけない。それが甲子園の出場。だから、県で負けるわけにはいかないんだよ」

 福島県12連覇。その先にある頂を目指し、山登りがまた一からスタートする。

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田口 元義

たぐち げんき

1977年福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。Numberほか雑誌を中心に活動。試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を感じられる瞬間がたまらない。現在は福島県・聖光学院野球部に注目、取材を続ける。


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