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男児強制わいせつ勃発「キッズライン」で見える、 自宅で子どもを任せられる他人の線引き問題

【連載】「コップの中の百年戦争 ―世の中の不条理やカラクリの根源とは―」

■「登録の簡素化」で生じた野放し状態と危うさ

 キッズライン社がこれらのトラブルに見舞われやすいのですが、いまや本社六本木でのシッター登録面接もせず、オンラインで済ませられるよう「登録の簡素化」をし、コロナウイルスで在宅となりヒマな人たちの登録拡大に打って出る方針も理由のひとつでしょう。実際、今回の容疑者は数十回に及ぶシッターとしての稼働の中に複数人の男児たちの裸の写真が納められているとされ、キッズライン社のマッチングによりシッター派遣された先のこれらの男児たちが少なくとも被害者であると目されていると言います。これが事実であるならば、キッズライン社は取材に応じることはもとより、むしろ取材に応じるよりも先に事態の確認を社内で進め、シッター登録者の素行確認や過去にマッチング派遣したシッターの状況について利用者からの聞き取りを奨励するなどの再発防止策について打ち出さなければならなかったはずです。

 シッタートレーニングについても、練習のためシッター派遣されるトレーナーの女性には、現金ではなくなぜかキッズライン・ポイントなる自家発行のポイント(商品券的なもの)でしか報いることなく、他の事業者に比べて派遣仲介料が高く設定されているうえに契約している損害保険以上の補償はありません。

 キッズライン社のマッチングを通じて派遣されたシッターから被害を被ったとされる家庭がどのくらいいるのかについては、捜査の進展を待ちながらキッズライン社による改善計画の発表とその進捗について見守りたいところではあります。ただ、これらのシッター事業については、いまでこそ無認可で野放図に斡旋された見ず知らずの人をそのまま自宅に上げ、自らの子どもをシッターとして預けている形になっています。もちろん、共働きの家庭や、緊急の外出時あるいは子どもが傷病中で保育園に行かせられないなどの状況であれば、シッター代金以上に心強い存在であることは確かです。

 一方で、本件に対する役所の対応はあまり熱心とは言えません。所管である厚生労働省は「報道の内容までは承知しているが、個別の事案については現段階では応えられない」。また、内閣府子ども・子育て本部児童手当管理室は「あくまでも(シッターの)『割引券制度』にまつわる事案に関しては対応するが、シッター制度そのもの、個別の取り扱い事業者などに関しては、児童福祉法に基づき、都道府県への届出、所管は厚労省」であるとして、こちらも個別の事業者の事情には答えられない状況です。きちんとしたベビーシッターも含めた家政婦派遣には統一された法律もなく認可業務でもないため、役所が事件ごとに対応について答えられないのもまた致し方ないところかなとは思います。

 しかしながら、女性の社会進出が是とされ、共働きが当たり前になる中で子育ての手段のバラエティを増やしていくことが必要な世の中になってきているにもかかわらず、シッター派遣の最大手を自認するキッズライン社がこのような対応であるというのは非常に残念なことです。さっそくキッズライン社内からは「キッズラインの株式上場のために、この問題はキッズラインだけの問題ではないと広報せよと経沢さんから言われている」と、釈明文面検討案つきで告発まで出ています。私としても、可能ならばキッズライン社に直接「どうも来月6月に株式公開を控えて、男児わいせつ事件の舞台となった問題アプリであると騒ぎになるような真似を起こしたくないので、今回のような問題が発生しても自社の責任だとは公言しない形で嵐が過ぎ去るのを静かに待とうとしているのでしょうか」と質問したくなるような状況です。

 単なる悪質業者としての「キッズライン叩き」に堕する必要はないと思いますが、さりとてまともに被害状況の社内確認すら真摯に公表せず、再発防止策について積極的に情報開示するようにも見えない状況ではせっかく高邁な理念を経沢香保子さんが説いても実態が追い付かないのはもったいないのではないでしょうか。

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山本 一郎

やまもと いちろう

著作家、ブロガー、投資家、経営者

1973年東京都生まれ。著作家、ブロガー、投資家、経営者。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。著書に『情報革命バブルの崩壊』『俺様国家中国の大経済』『ネットビジネスの終わり』ほか。   ブログ「やまもといちろうオフィシャルブログhttps://lineblog.me/yamamotoichiro/  

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