『マルコポーロ』の旅路の果て【新保信長】 新連載「体験的雑誌クロニクル」17冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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『マルコポーロ』の旅路の果て【新保信長】 新連載「体験的雑誌クロニクル」17冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」17冊目

 

 判型もタイトルロゴもデザインも変更し、表紙に「マルコは変わります。」と大きく謳う。キャッチフレーズは「ニューエイジ文藝春秋」とした。〈“団塊の世代”よりいい奴。“新人類”よりちゃんとしている。「仕事だけの人生なんてイヤだ」といいながら、ハードに働いている30代のビジネス・ピープル。マルコはあなたたちに味方します。〉と宣言し、読者対象をはっきり30代の会社員に絞り込んだのだ。

 メイン特集は「サーティーズは、『多数決がキライだ。』」。といっても、多数決云々ではなく、いろんな切り口で「30代」のあり方を考察したものだ。9月号では「カミさま、よろしく。」と題して宗教と信仰心をテーマとした特集が組まれる。一転、10月号では「自腹を切るなら、このお店。」と、ぐっと庶民的なグルメ特集を組んだかと思えば、11月号は「スキだけど、キライな韓国。」ときた。このへんのタイトルのつけ方は初期『クレア』に通じる。雑誌にはやはり編集長のカラーが出るものだ。

 この編集長交代に伴い、スタッフも大幅入れ替えとなった。そこで新たに編集部に加わったうちの一人が、勝谷誠彦氏だった。花田紀凱編集長時代の『週刊文春』でカメラマンの「不肖・宮嶋」こと宮嶋茂樹氏とのコンビで名を馳せたのをご記憶の方も多いだろう。

 実は勝谷氏は中学・高校の先輩で、私が中1のときの高2だった。中高時代の4年の差は大きく部活でのからみもなかったので、在学中に話をしたことはない。初めて面と向かって話したのは、私が会社を辞めてフリーになった年の暮れ。付き合いのあった風俗ライターの「なめだるま親方」こと島本慶氏の紹介で、三軒茶屋の居酒屋で飲んだ。すでに業界の有名人だった勝谷氏に対して私は無名のフリーだったが、学校の後輩ということもあってか気さくな感じで接してくれた。 

 その数カ月後、『マルコポーロ』編集部に異動になった勝谷氏に声をかけられ、同誌の仕事をすることになる。最初はライターとして、特集「怖いもの見たさ決定版! ナルホド[秘境]コマッタ[聖域]」(1993年1月号)の中で、救命救急センターのリポートを書いた。緊迫した命の最前線で、邪魔にならないよう気をつけつつも、救急隊員の状況報告や医師と看護師の会話に耳をそばだてる。この機会に読み返してみたが、手前味噌ながら臨場感ある記事だと思う。

 1993年5月号からは、契約スタッフとして編集部にデスクをもらい、企画会議にも参加するようになった。その号の特集が「進め!マンガ青年!」(表紙は江口寿史)で、目玉記事は500人アンケートによる「青年マンガ・ベスト50」の1位を獲得した『ナニワ金融道』作者・青木雄二のインタビュー。おそらくこれが初のメディア登場だ。

 私が担当したのは、当時の有害コミック騒動をおちょくった企画。「こんなにエッチでケシカラン! 有害コミック[実用]ガイド」と題して、有害指定されたものの中から選りすぐりの作品をまじめにレビュー。「ちょっとアブない[有害4コマ]競作集」では、いしかわじゅん、山科けいすけ、唐沢なをき、いしいひさいち、西原理恵子、ひさうちみちお、よしもとよしとも、永野のりこの8人に、あえて「有害」な4コマを描き下ろしてもらった。

 

『マルコポーロ』(文藝春秋)1993年5月号。記事画像はp98-99より

 

 6月号は「やっぱし、TVが大好き。」。人気絶頂だった『進め!電波少年』の司会の二人、松村邦洋と松本明子が表紙を飾る。その舞台裏に何があったかは、特集冒頭のカーツ佐藤の「[進め!電波少年]にアポなし取材を敢行する」に詳しい。この取材後、電波少年側が逆に『マルコポーロ』編集部にアポなし取材に来るという顚末には笑った(実際にオンエアされた)。テレビも雑誌も元気だった時代ならではのグルーヴ感あふれる記事である。

 同特集では、タレント学者などを辛口評論した「テレビ界[なんかヘン]な人物事典」、視聴者センターへの苦情電話について取材した「視聴者は[神サマ]か?」、根本敬×とり・みき対談「テレビの無法地帯[政見放送]の密かな愉しみ」を担当した。

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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