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地産地消の生き方
TPP上陸に備えて改めて問われる「食」問題

「食の国際化は戦争への道である」

アラブ諸国で食料を自給している国はない

『アラブ諸国には、1945年に設立された「アラブ連盟」があります。現在では、21か国と一機構が加盟する大きな地域機構です。

各加盟国の2011年度の穀物自給率(平成26年度・食料需給表より)を記述します。エジプト(56%)・イラク(49%)・サウジアラビア(11%)・シリア(68%)・レバノン(13%)・ヨルダン(4%)・イエメン(19%)・アルジェリア(27%)・バーレーン(?)・ジプチ(0%)・クウェート(2%)・リビア(9%)・モーリタニア(25%)・モロッコ(71%)・オマーン(?)・カタール(?)・ソマリア(15%)・スーダン(74%)・チュニジア(52%)・アラブ首長国連邦(5%)・コモロ(?)・パレスチナ(3%)です。
 穀物自給率が、?マークの国がありますが、調査不能な国で、限りなく0%に近いと思われます。
 また、「アラブ連盟」には加盟していないイスラエルの穀物自給率は3%です。
「アラブ連盟」は、主に政治・文化・社会・経済面での協力を目的にしていて、本部はカイロにあります。目的の一つに紛争の調停と仲介がありますが、加盟国間の戦争や内戦が途絶えたことはありません。言い換えれば、常に戦争と内戦が続いている世界の火薬庫といわれている地域です。

 その原因は、加盟国21か国一機構のすべての国が、食料を自給していないことにあると筆者は考えています。

 石油産油国で経済的に恵まれている国は、食料輸入も容易ですが、経済的に恵まれていない国にとっては、食料輸入は容易ならぬ事態に陥る可能性は大です。その上、経済的に恵まれている、いないにかかわらず、国内における富の集中が、少数の高所得者層と大多数の低所得者層という、経済格差の大きな社会構造となっています。
 石油資源の恩恵で、一見したところ豊かそうに見えるアラブ諸国ですが、「食の国際化」に惑わされ、食料の自給という自立国家としての資質の喪失により、国家としても、国民としても、不安定な社会構造となっています。
 アラブ諸国が、世界の火薬庫などといわれない、平和国家として確立できるかどうかは、各国の食料の自給体制にかかっていると筆者は考えています。

「食の国際化」がもたらす経済格差が、戦争や内戦の火種となる。と述べてきた理由の一端がご理解いただけることと思います』

 島崎氏の主張は、「食の国際化は戦争への道である」ということだ。
 TPP承認案と関連法案が、一昨日4日の衆議院TPP特別委員会で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で、可決された現在。
 与党と野党では政治的な綱引き状態になっているようだが、参議院では、こうした島崎氏の意見も十分に論議されることを祈るばかりだ。

◆島崎治道(しまざき はるみち)
1939年静岡県生まれ。法政大学社会学部卒業。「付加価値農業経営研究所」所長(1965年~)、90年から2001年まで、埼玉県「21世紀むらづくり塾」アドバイザーを務める。法政大学社会学部兼任講師(「農業・食料論」担当、2002年~10年)。法政大学大学院「食と農」研究所・前副所長特任研究員(~2013年)。著書に『『食料自給率100%を目ざさない国に未来はない』(集英社新書)がある。

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  • 島﨑 治道
  • 2016.11.09