アメリカにすべて頼るなんて、まっぴら

 

小林 奴隷って、おまんまさえ喰わせてもらえば、その環境に慣れてしまうんですよ。だから、トランプが大統領になって「在日米軍を引き揚げる! 日米安保も終了!」と言い出すような外側からの激変がないかぎり、自分で考え方を変えることができない。

伊藤 人間には、まずは長生きしたいという動物的な本能がありますから、どんな立場であれ、おまんまが食えることは大事なんでしょう。そこから先、命よりも大事なものがあるかどうかは、人によって違う。もちろん大多数は「命より大事なものはない」と言うでしょうし、それでいいと思いますけど、「自衛隊は国民の生命・財産を守るために存在する」と言われると、本当にそれだけなのか? と思います。生命と財産以外に大事なものがないなら、ずっとアメリカの靴の裏を舐めていればいいでしょう。でも、そういう生き方が嫌な人だっているんじゃないでしょうか? 

小林 どうしてもアメリカの力を借りる必要があるなら、日本の自主防衛体制を整えた上で、アメリカや東アジア諸国と安全保障条約を結べばいいんですよ。べつに「単独防衛」である必要はない。基本は自主防衛で、国内の基地は自衛隊が使う。そうして主権を取り戻せば、奴隷状態から脱することができます。とにかくアメリカ様にすべて頼らないと滅びてしまうというのでは、日本という国に何の存在意義があるのかわからない。それじゃ国としての価値がないでしょ。

伊藤 私自身、自衛隊を辞めてミンダナオ島に行ってから、「国って何だろう」ということがよくわからなくなりました。ミンダナオ島で必死に生きている人たちと一緒に過ごして、たまに日本に帰ってくると、コンビニの前には、何となく生きてるだけのように見えてしまう小僧がいたりするわけですよ。あり得ないことだけど、たとえば日本とミンダナオ島が交戦状態になったときに、「自分はこいつを守るために、彼らを殺めるのか?」などと考えちゃいますね。たまたま国境線の内側で生まれた人のことは守って、外側で生まれ育った人はどうでもいいのか。いったい、国境って何なのかわからない。「そんなこともわからずに自衛隊にいたのか」と言われたら返す言葉がなくて、お恥ずかしいかぎりですが。

小林 それは本当に重大な問題ですよ。奴隷根性に浸りきった国民なんかを命懸けで守ってもしょうがないじゃん、という気分にもなりますよ。

伊藤 だから「国民の生命・財産を守る」と言われると違和感があるんです。ちゃんと国家の理念があって、そこを目指している国家の意思であるのなら、人間としていちばんやりたくないことだけど、人を殺めるのも、自分が死ぬのも受け入れます。

小林 やっぱり根本的な国家戦略が間違ってるんですよ。イラク戦争ではアメリカの侵略戦争に賛成してしまったし、安保法制でも自衛隊がますます中途半端な立場になってしまった。目的のよくわからないアメリカの戦争のために、これまで以上に危険な任務を与えられるんですから。自衛官たちが納得して命を懸けられるようになるには、国家主権を取り戻して、ふつうの独立国にならないといけないんです。

(了)

 

 
小林よしのり
こばやしよしのり。1953年福岡県生まれ。漫画家。1976年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。以降、『おぼっちゃまくん』などの作品でギャグ漫画に旋風を 巻き起こした。1992年、社会問題に斬り込む「ゴーマニズム宣言」を連載開始。1998年、「ゴーマニズム宣言」のスペシャル本として発表した『戦争 論』(幻冬舎)は、言論界に衝撃を与え、大ベストセラーとなった。現在『SAPIO』にて連載中。近刊に『大東亜論』第一部・第二部(小学館)、『民主主義という病い』(幻冬舎)、『ゴーマニズム戦歴』(ベスト新書)などがある。

 

 
伊藤祐靖
いとうすけやす。1964年東京都生まれ、茨城県育ち。日本体育大学から海上自衛隊へ。防衛大学校指導教官、「たちかぜ」砲術長を経て、「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件に遭遇。これをきっかけに自衛隊初の特殊部隊である海上自衛隊の「特別警備隊」の創設に関わる。42歳の時、2等海佐で退官。以後、ミンダナオ島に拠点を移し、日本を含む各国警察、軍隊に指導を行う。現在は日本の警備会社等のアドバイザーを務めるかたわら、私塾を開いて、 現役自衛官らに自らの知識、技術、経験を伝えている。著書に『とっさのときにすぐ護れる女性のための護身術』、国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動 』(文春新書)がある。