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施設で育つ「子ども」と施設で子どもを育てる「スタッフ」
~児童養護施設で 育った成人~

児童養護施設で 育った成人

■職員には極めて難しいケアが求められる

 施設に預けられる子どもと実親との関係性はさまざまです。

 親が子どもを気にかけず、虐待やネグレクトを引き起こした場合もあれば、話を聞かせてくれた方のように「育てたい」「一緒に暮らしたい」という思いがありながらも、何らかの理由で育てていくことは厳しいと判断せざるを得ない場合もあります。

 預けられた子どもの状況が一人一人異なる以上、施設職員の方はそれぞれの子どもに合わせて対応を変えていかなければなりません。

 自分の子どもであれば生まれた時からずっと見ていますから、言ってしまえば「普通に」子育てをすればいいわけです。それでも小さな失敗や悩みはつきものですが、育ってきた経過を肌でわかっているため、子どもの状況に合わせて育てていくことができます。

 一方で職員の方は、施設に預けられる子どもを自分が育てられたように、あるいは自分の子どもを育てるのと同じようにみるわけにはいきません。

 子どもたちはそれぞれ預けられるに至った経緯が異なり、発育や精神面への影響も異なります。

 自分が当たり前に感じることが、ある子にとっては全然当たり前じゃないという場面に、毎日のように遭遇するのです。

 日々それぞれの子どもに合わせた対応をされていることがわかる、エピソードを紹介しましょう。

 ある子どもが「ニンジンの絵を描いた」と言ってきました。ところが持ってきたのは「いちょう切りになったニンジンの絵」でした。その子どもは調理されたニンジンしか目にしたことがなく、「調理する前のニンジン」を知らなかったのです。驚いたその職員の方は、スーパーへの買い物に一緒に連れて行って教えてあげたそうです。

 施設によっては学校の給食室のような調理場が併設されています。そのような施設で生150活している子どもは、調理する様子を実際に見る機会がありません。最近では、自分たちが食べる食事を作る様子を見せるために、それぞれの居住スペースにダイニングキッチンを設けている施設も増えているようです。

 また、たとえば虐待に遭っていた子どもへの対応として、「現住所が親にバレないこと」を最優先で考え、学校に依頼して連絡網などに一切の情報を載せないようにした、というケースも聞きました。

 職員の方は基本的に、一人で複数の子どもたちを担当します。子どもたちは皆両親が異なり、育ち方もそれぞれですから、同じように接するわけにはいきません。しかも職員の方も一日ずっとみているわけではなく当番で入れ替わるため、一人一人に合ったケアをしていくのは極めて難しいことなのです。

 今回話を伺った、かつて施設に預けられていた方は

「施設での生活は他の人ができない貴重な経験だったと今では感じている」「友達も増えて

楽しかった」と明るい顔で語ってくれました。

 もちろん全員が前向きに捉えているわけでないことは重々承知しています。

 しかし、置かれた状況によって普通の家庭生活が困難になり、入所に至った際の精神状態は決してプラスではなかった中で、社会人として立派に活躍されているこの方のお話を伺ううちに、そこに職員の方々の細やかな気遣いと日々の努力を感じ、私はとても嬉しい気持ちになりました。

「子どもの権利」という問題

 保護されている児童は、18歳になると基本的には施設を出て大人として暮らしていくことになります。また家庭環境の改善や就職などを機に退所する児童も多く、先述の厚生労働省が今年発表した資料(社会的養育の推進に向けて〈参考資料〉)によると、平成29年度には4511人の児童が退所しています。

 それを見据えて知っておきたいのが「子どもの権利」についての問題です。

 日本ではそもそも2016年の児童福祉法の改正まで、子どもは「保護の対象」として捉えられていました。あくまでも子どもは「親あるいはそれに準

ずる存在が『保護』する存在」とされてきたということです。

 それはすなわち、子どもについては親の意向が大きく優先するということであり、ここまで指摘してきた「親権が強すぎる」という問題にも表れています。

 

実は日本は、過去に国連から「子どもの人権侵害」にあたる可能性を指摘されています。

 海外では、養子縁組をはじめとした里親への委託がかなり進んでいることを第1章でお話ししました。

「海外ではそうかもしれないが、日本は代わりに施設などでの保護という方法を取っている。善し悪しではなく文化的な違いにすぎない」と思う方もいるかもしれません。

 しかし日本は約四半世紀前、1994年の時点で「すべての子どもたちに家庭環境を与えるように」ということを謳うたった「子どもの権利条約」という国際条約に既に批准しているのです。

 それにもかかわらず、日本はこれまでずっと施設などによる「社会的養護」をメインの方策としてきました。「親の権利」を重視するあまり、「家庭環境を与えられて育つ」という「子どもの権利」が二の次になってきたのですから、子どもの人権の侵害を指摘されても仕方ありません。

 したがってこの度、だいぶ遅くなってしまったものの、子どもが「権利の主体」であるという意識の下で制度が変わることになったのは極めて正しい判断と言えます。今後この意識を、当たり前のものとして国民全体に定着させていかなければなりません。

 子どもは基本的に声を上げにくいものです。自分の意思を持ち、考えを話すことができるような年齢の子であっても、有形無形の大人の圧力には大きく影響されます。まして言葉も話せない赤ちゃんは、どのように自分の意思を伝えればいいのでしょうか?

 ですから、やはり私たち大人が、子どもの声を汲み取らなければなりません。子どもにとっていちばんの幸せは、自分だけを見てくれる親のもとで目一杯の愛を感じながら成長していくこと。それは誰もが同意してくれると思います。

 私たちは、この「子どもの権利」をこれ以上奪ってはいけません。大人のさまざまな事情のために、社会的養護をメインとした現状で満足していてはならないのです。

 特別養子縁組はあくまで、子どもの権利を尊重するための選択肢のひとつにすぎません。時には子どもの権利のために、施設に準ずる環境での一時的な保護がより必要な場合もあるでしょう。あらゆる施策は子どもの権利を尊重するために臨機応変に利用してこそのものです。二次的なものに過ぎないということを忘れてはいけません。

 児童養護施設や、施設で育った方への取材を通して、私はこのような想いを強くしました。

 施設の子どもたちにも「家庭で親に愛されて育つ権利」があるのに、社会全体でそれをよしとしてしまっている。いや、そんな現状があることさえ大半の人は知らないのかしれません。

 人権は、人間の根本に関わるもっとも重要な権利です。それが、この国の子どもに十分には保障されていない可能性があることを、あなたは知っていましたか?

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『インターネット赤ちゃんポストが日本を救う』

著者:阪口 源太(著)えらいてんちょう(著)にしかわたく(イラスト)

 

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親の虐待や育児放棄を理由に国で擁護している約4万5000人の児童のうち、現在約7割が児童養護施設で暮らしています。国連の指針によると児童の成育には家庭が不可欠であり、欧米では児童養護施設への入所よりも養子縁組が主流を占めています。

本書ではNPOとしてインターネット赤ちゃんポストを運営し、子どもの幸せを第一に考えた養子縁組を支援してきた著者が国の制度である特別養子縁組を解説。実親との親子関係を解消し、養親の元で新たな成育環境を獲得することができる特別養子縁組の有効性を、マンガと文章のミックスで検証していきます。

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阪口 源太

さかぐち げんた

NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事

1976年福井県生まれ。NPO法人全国おやこ福祉支援センター代表理事。自ら創業したIT会社を売却後、東日本大震災をきっかけに社会起業家に転身し、NPOを設立。大阪を拠点として、特別養子縁組のサポートに携わる。著書に「産んでくれたら200万円 -特別養子縁組の真実-」(Kindle版)がある。


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  • たく, にしかわ
  • 2019.08.02