■額賀澪が夏目漱石に勝つ方法

「作家というのは大変な仕事ですよね」

 取材の終わり、オフィスをあとにしようとする私達に、加藤さんはそう言った。

「新人だとかベストセラー作家だとか、本になって書店に並んだらそんなの関係なくて、過去の文豪とも真正面から戦わないといけない」

「夏目漱石とか、めちゃくちゃ面白いですもんね」

 加藤さんは、笑いながら「すごいことですよね」と頷いた。

「でも、額賀さんが漱石とか太宰とか芥川とか、そういった過去の文豪に絶対に勝っているところもあるんですよ」

「えー……、ブラインドタッチの速さとか?」

 でも、夏目漱石がパソコンを手に入れたら、私よりずっと早くブラインドタッチを習得し、あっという間に使いこなしてしまうような気がする。

「額賀さんは生きてるってことです。夏目漱石は、読者と交流したり、コミュニティを作ったりはできないですから」

 な、なるほど。

 生きていれば、読者と交流できる。作品以外の場所で読者を楽しませることができる。

 果たしてそれは作家がやるべきことなのか。そんな意見が出て来るのはもちろん承知の上だ。でも、私はそのときの加藤さんの言葉がもの凄くしっくり来た。

 『拝啓、本が売れません』を書きながら、「売上のことばかり気にしてるがめつい作家って思われないかな」とほんの少しだけ心配していたことが、綺麗に吹っ飛んだ気分だった。

 どんな綺麗事や理想を並べ立てたって、本が売れなきゃ私は作家を続けられないんだから。

「よければcakesもnoteもガンガン使ってください。額賀さんみたいな若手作家にこそ使ってほしいと思ってますから。note発信で、ヒット作を生み出してください!」

 加藤さんにそんなエールと共に見送られ、私とワタナベ氏はピースオブケイクのオフィスを出た。

 渋谷駅に向かいながら、私はメールを打った。先日新作の打ち合わせをしたばかりの、某社の担当編集K氏へ。

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