Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q3.選手と食事に行かない、選手に子どもがいるかどうかも知らない、と伺いました。その理由をあらためてお教えください。

 

――選手の私生活には無関心で、そこには踏み込まないということでしょうか。

鈴木 選手の私生活をほったらかしにしているわけではありません。生活が乱れたらプレーに影響するので、選手がピッチ外でどうすごしているかにはアンテナを張っています。「いつも帰りが遅い」とか、「ある店に入り浸っている」とか、「東京にしょっちゅう遊びに行っている」という悪い情報は私の耳に入ってくるようになっています。
 しかし、選手に子どもが何人いるとか、どんな車に乗っているかには興味がないし、知らない方がいいと思っています。GKの佐藤昭大が家を新築して、年末に引っ越しというタイミングで戦力外通告をしたことがあります。佐藤が家を建てたばかりであるのを知らなかったのですが、もし知っていたら戦力外にしづらかったと思います。だから、そういうことは知らない方がいいのです。選手とは食事にも行きません。

――それはなぜですか。

鈴木 強化部長は公平でなければいけません。「満さんはあいつと食事に行っているのに、オレとは行ってくれない」「あいつばかり優遇されている」と思われるようなことがあってはまずいでしょう。なぜなら、私がチームのルールブックであり、審判でなければならないからです。

 何かもめごとが起きたとき、ジャッジするのは私です。私がダメと言ったらダメ。そうでなければなりません。「審判」である私は公平性を保つ必要があります。だから、選手との間に一線を引いています。私は選手の車が駐車場にとまっていたら、その店には入りません。選手も私の流儀がわかっているので、私のいる店には入ってきません。私だってたまには選手と食事がしたいので、寂しい部分はあります。

――選手はすべて平等に扱うのでしょうか。

 

鈴木 それは違います。
 公平性は重要ですが、すべての選手を平等に扱うわけではありません。数々のタイトル獲得に貢献してきた小笠原満男や曽ケ端準と加入して1、2年目の選手を同じように扱ったら、おかしなことになります。ベテランを特別扱いするのとは違いますが、彼らの立場は考慮します。たとえば飛行機のビジネスクラスが10席しか確保できなかったら、実績のある選手を優先して座らせます。何の実績もない選手を座らせたら、ひずみが生まれます。「文句を言うなら、満男たちのようにタイトルを取ってみろ」と言います。
 それとはまたちょっと違う話ですが、私はふだん、チームの中で立場の弱い人間に話しかけるようにしています。用具係やベンチに入れない選手に私から語りかけて、話を聞く。彼らは「オレのことも気にかけてくれているんだ」と感じて士気が高まるでしょうし、不満の解消になります。弱い立場の人間と私が対話している様子を見れば、すべての選手、スタッフが私に話しかけやすくなって、一体感が生まれます。

――一般の企業では上司が部下と食事に行って、愚痴を聞いてあげることがありますが、そういうフォローはしないのですか。

鈴木 そういうフォローは強化部とは別の部署が行っています。強化部は風紀委員みたいなもので、選手を試合に集中させるために「ああしちゃいけない、こうしちゃいけない」と厳しいことばかり言います。
 これだけでは息が詰まってしまうでしょう。手綱を引き締めるだけでは選手の管理はうまくいきません。ムチだけではなくアメも必要です。選手を甘やかすわけではありませんが、食事に行って愚痴を聞いたり、私生活での面倒をみたりするのは主に事業部です。事業部は選手にイベントなどで協力をあおぐことが多いので、食事を一緒にする機会が多くなります。
 そのとき、選手の話に耳を傾けてあげることでガス抜きができます。もちろん事業部と強化部は情報交換をしていて、事業部は選手がどんなことを考えているか、どんなことに不満を抱いているかを伝えてくれます。それをもとに、私は落ち込んでいる選手を前向きにする言葉を掛けます。こうやって鹿島はすべての部署のスタッフが選手を大事にし、管理・サポートしているわけです。これは他のクラブにはないことだと思います。【集中提言1週間・鈴木満さんインタビュー】

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