「野球とは何か?」それに対する答えは2つ。1つは、「“間”のスポーツである」であるということ。もう1つは、「団体競技である」ということ。新刊『壁』を発売した野村克也氏に聞く、野球の本質。

「個の力」を集めるだけでは、絶対に勝ち続けることはできない

 野球とは何か? 

 これは、ヤクルトスワローズや阪神タイガース、楽天イーグルスの監督に就任する度に、選手に対して問いかけてきた質問です。

 その答えは、人それぞれの野球観によって異なるでしょうが、私の中では2つあります。

 まず「野球とは、“間”のスポーツである」ということです。

 世の中には数多くのスポーツがありますが、野球ほど“間”が多い競技はないのではないでしょうか。

ピッチャーが1球投げるごとに試合が途切れる、つまり絶えず“間”ができるわけです。そして、この“間”こそが野球の醍醐味であると、私は考えています。

 “間”があるということは、次のプレーに備え、考える時間があるということでもあるんです。それをいかに有効に活用できるかどうかが、勝敗の鍵を握ることになるんですよ。たとえ弱者でも、極限まで頭を働かせ、勇気を持って行動に移せば、強者を倒すこともできるかもしれない。

 だからこそ、私は今もなお、“考える野球”の重要性を提唱しているんです。

 そして、2つ目は「野球とは、団体競技である」ということです。

 言われるまでもないことと思われるかもしれませんが、そのうえで私は、「団体競技とは、選手が同じ方向を向いてプレーすることである」と捉えています。

 同じ方向というのはチームの勝利、そして優勝することであり、「フォア・ザ・チーム」の精神に通じます。野球という競技は、「個の力」を集めるだけでは、絶対に勝ち続けることはできません。

 もちろん向いている方向が一致していなくても、圧倒的な戦力で優勝する年もあるでしょう。ただ、そうしたチームほど、実は脆いものなんですよ。

写真/高橋亘

 つまり、団体競技ではなく、「個の力」に頼った個人競技をしているため、選手個人のレベルが下がったり、調子が落ちたりすると、チーム力が一気に低下してしまう。長続きしないんです。

 私が監督就任当時のスワローズは、決して恵まれた戦力ではありませんでした。しかし、相馬球団社長に「1年目には種をまき、2年目に水をやり、3年目に花を咲かせます」と宣言していた通り、3年目のリーグ優勝を皮切りに、指揮をとった9年間で4度のリーグ優勝、3度の日本シリーズ制覇を果たすことができました。

 それもひとえに、選手、ベンチ、フロントが一体となって、優勝という同じ方向を向いて野球をしていたからなんですよ。

 私が監督を退いた1999年以降も、スワローズは、川崎憲次郎、石井一久、高津臣吾、稲葉篤紀といった主力選手が移籍したにも関わらず、日本一に輝いた2001年から4年連続でAクラスをキープしました。

 これは球団史上初の記録だそうですが、チームとして、「野球とは、団体競技である」ということを常に意識してプレーしていたからこその結果と言えます。

 こうした結果を見るだけでも、野球において、いかに考えることが大事か、フォア・ザ・チームの精神が大切であるかが分かるはずです。一方で、他球団がまるでそうした野球を標榜していなかった証拠でもあるんです。

 ただし現在はだいぶそうしたことも浸透してきた。WBCの試合を解説した時、私はスコアラーの大切さを指摘しました。

 WBCのように、相手の情報がほとんどない試合では、まさに考える野球、そして、それを支えるスコアラーが試合のカギを握ることを、ファンの皆さんも理解されたのではないかと思うんですよ。

明日の質問は「Q.23 ヤクルトスワローズの監督退任後の監督人生について聞かせてください」です。