———マハさんは、デトロイト美術館展が日本で開催されることから、同美術館に興味を抱かれ、調べるうちに美術館をテーマにした小説「デトロイト美術館の奇跡」を執筆することになったと聞いています。 小説に描きたいと、心を動かされたのはどんなことだったのでしょうか?

原田  デトロイト美術館って、私も知らなかったのですが、実に驚くべき美術館なんです。
 皆さん、デトロイトというと、財政破綻とは治安が悪いのでは……などネガティブな印象を抱いている人が多いのではないかと思います。車産業で発達したデトロイトは、19世紀末から20世紀にかけて光が当たった町でした。 
 美術館は1885年創立と全米で2番目に古く、古代エジプトから現代までコレクション数は約6万5000点。アメリカで初めて、ゴッホやマティスの作品を購入した公共の美術館で、先見の明があることでも知られていました。
 そんな美術館が、2013年のデトロイト市の財政破綻によって、存続が危ぶまれることになりました。

「年金を取るのか、作品を取るのか」なんて言葉を記憶されている人もいらっしゃるかもしれませんが、動産として見るとその資産価値は高く、企業やコレクターたちが集め寄附したコレクションは、売れば財政破綻を助けることが出来たかもしれないぐらいのインパクトを持っていました。
 この町で起きたことは、私たちは文化財をどう捉えていくのか、という根源的な問題だったと思います。一旦、公的美術館に入ったものが散逸してしまうことを国民が意識し、皆で守らなくてはという気持ちをシェアすることになりました。破綻からデトロイト美術館を救い出すという一連のなかには、様々の奇跡的なことがありました。
 そして、市民やアートを愛する人たちが、デトロイト美術館の作品を自分たちのものとして考えて友人のように接し、なんとかしたいという気持ちのもとに、復活を遂げるという事実が起きるのです。

———この小説の登場人物の誰かに、ご自身を投影されているのでしょうか?

原田  色んな人が出て来ますが、それぞれの人がそれぞれの立場で、アートというものと人生を通して、どう付き合って来たかを描きました。ただ、等身大の立ち位置という意味では、読者も私自身も、アフリカン•アメリカンのフレッド•ウイルかもしれません。
 彼が言った、「DIA(デトロイト美術館)のコレクションは、『高額な美術品』じゃない。私たちみんなの友達だから」という言葉は、何の混じりっ気もありません。
 私自身、いつもそう思っています。 確かにアートは高尚なものかもしれません。でも、それだけではなくて、もっと身近に感じるもの。第一、友達だから、裏切らないんです。恋人とか奥さんだったら裏切るけれど(笑)。だからこそ、「助けたいのです。———友を。」となるのです。

 『楽園のカンヴァス』でもそうでしたけれど、私の小説のテーマはいつも「アートは友達、美術館は私の家」ということ。小説を書くことを通じて、「アートは友達」ということを伝えられればと願っています。
 

原田マハ 

 

 

<プロフィール>
作家。1962年生まれ。関西学院大学文学部、及び早稲田大学第二学部卒業。2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、作家デビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞を受賞。最新作は『暗幕のゲルニカ』

<インフォメーション>
「デトロイト美術館展」
会期/10月7日(金)〜2017年1月21日(土)
休館日/10月21日(金) 時間:9:30〜16:30(但し、毎週金曜日は20:00まで)
 ※入館は閉館の30分前まで
場所/上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
観覧料/一般1600円、高校•大学生1200円、小•中学生600円(いずれも当日)
問合せ/☎03-3833-4191