【トランプの対中東政策の今後とは】

 最後にイラン問題には直接関係ありませんが、トランプの対中東政策を考える上で極めて重要なターリバーンとの交渉について触れておきましょう。

 アフガニスタンのアシュラフ・ガニー政権を排除してのカタルのドーハにあるアフガニスタン・イスラーム首長国(ターリバーン)政治代表部とアメリカの直接交渉はオバマが先鞭をつけたものでしたが、実はトランプ政権になって顕著な進展を見せています。

 2019年1月末の会議では、和平文書の署名から18カ月以内に駐留米軍が撤退することで暫定合意が成立しました。米軍は2001年10月に有志連合を組織しアフガニスタンを空爆しアフガニスタン・イスラーム首長国(ターリバーン)政権を崩壊させ、傀儡政権を成立させ数百億ドルにものぼる政治経済軍事支援を続けてきました。ターリバーンとの単独和平と米軍の撤収の決定は、アメリカのアフガニスタンでの占領行政の最終的な破綻宣言とみなすことができます。

 アフガニスタンは19世紀以来のユーラシアをめぐる「グレート・ゲーム」の主舞台でもあり、ターリバーンとの和解、米軍のアフガニスタン撤退の決定は、「アメリカは世界の警察官ではない」を持論とするトランプ政権の基本方針が、中東から手を引くことであることを示しています。

 既に述べたように、対イラン関係には、考慮すべき多くの特別な要素がありますが、トランプの世界戦略の基本がモンロー主義で、中東からの撤収であり、イランとの戦争を望んでいないことは念頭においておく必要があります。

 前の記事で私は以下のように言及しました。

「イランに限らず、中東の人々はメンツを重んじるのが特徴です。特にイランは2500年の歴史を持つ大帝国の末裔という強い誇りを持つ上に国教であるシーア派が歴史的に、彼らが奉ずる教主イマームたち、不正な権力の簒奪者によって殺されたと信じ、邪悪な権力者たちによる迫害への強い反発の意識が高い。1979年に殉教者精神に基づく革命によって成立した国なので、攻撃されればされるほど奮い立つ傾向にあります」と。

 したがって、メンツをつぶし力づくで脅すような扱いは逆効果しかありません。トランプ米大統領が「今は、イランがいちばんアメリカをリスペクトしている時代だ」などと言っていましたが、これは「強い者がリスペクトされる」という非常に西洋人的な感覚です。もちろん中東でも強い者に媚び諂う者はいますが、「強いだけの者は決してリスペクトはされません。とくにシーア派のイスラーム学者たちが指導するイランの現体制がアメリカをリスペクトすることはありません。」とも書きました。

 まさにこのことをザリーフ外相が7月1日『アラビーヤ』に述べています。

「イランは決してアメリカの圧力には屈しません。アメリカはイランをリスペクトしなくてはなりません。もし彼らがイランと対話したいなら、リスペクトを示さなければなりません。」

 何の具体的な政治的、経済的、軍事的要求もない言葉ですので、ただのレトリックとして見過ごされるかもしれませんが、実はこの言葉が、イランとアメリカの40年の確執を溶かす和解の鍵を握るマジカルワードなのです。

 

【暗愚な宰相と官邸に「イランとアメリカの仲裁」は無理】

 トランプが、口先だけでもハーメネイとイラン・イスラーム共和国体制に対するリスペクトの言葉を伝えさえすれば、イランとアメリカの対話は起動します。もちろん中東人は皆タフネゴシエーターであり、中でもイラン人は最もしたたかな外交巧者であり、核交渉を始め、具体的な和平交渉は難航することは必至です。リスペクトを示すことは対話と和解の必要条件であって十分条件ではないことは言うまでもありません。しかし、必要条件を満たさない限り、何も始まらないこともまた事実です。

 暗愚な宰相と官邸に「イランとアメリカの和解の仲裁」を期待することはできません。しかし、失敗をいたずらにあげつらうのでも、失敗を取り繕う提灯記事を書くのでもなく、どうすればイランに対してリスペクトを示したことになるのかをアメリカ・サイドに伝えることができるのかを教えることこそが、研究者とメディアがなすべきことだと私は信じています。