政治家や官僚たちの不適切な発言や不正問題が明らかとなり、閉塞感が続く日本の政治——。憲政史上最長が見えてきた安倍首相。政治家・安倍晋三がここまで「強い」理由はどこにあるのか? また、安倍政権のどこが問題なのか?  書籍『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著)より、政治家・安倍晋三を考えます。

「人柄が信用できないから」

――内閣支持率調査などでは、安倍政権不支持の理由でもっとも多い回答が、常に「人柄が信用できないから」という項目です。モリカケ(森友学園と加計学園)疑惑、防衛省の日報問題、厚生労働省の統計不正問題など、次々起こる問題に、国民は安倍首相に不安を抱き、「なんとなく嫌だな」「嘘をついているのではないか」と感じ取っていることが反映されています。
 国会では、立憲民主党の枝野代表との論戦などで、安倍首相は独特の「信号無視話法」、「ご飯論法」を繰り出し、その「話法」が話題になりました。質問に対してYES、NOをはっきり言わないのが特徴です。政府答弁は、決して言質を取られないようはぐらかすのが歴代政権の常套手段ですが、それにしても近年の安倍首相の発言は、ひどすぎるようにも思えます。

 しかし、安倍首相の次がいないという決めつけや、民主党政権の三年間の〝トラウマ〞があるのか、国民が未だに受け皿を選びかねているようにも見えます。
内田 樹(以下、内田)  反対者と対話する能力がないというのは深刻なことだ

c) Yoshiro Sasaki 2019

と思います。それって、「挨拶ができない」ということとほとんど同じですから。挨拶なんだから、別に万感をこめてしなくたっていいんです。「お
はようございます」とか「おつかれさま」とか「ありがとう」くらい、口先だけでもいいから、言ってみてほしいと思います。挨拶ができてからしか実のある対話は始まらない。
 そんなこと社会人としての常識じゃないですか。でも、安倍首相は国会で野党の質問のときに「せせら笑い」をしてますよね。あれはほんとうにいけないと思う。冷笑というのは対話も交渉も端はなからやる気がないことの意思表示ですから。
――「嘘」とか「真実、事実とは何か?」ということに注目が集まったのは、モリカケ疑惑がきっかけだったと思います。
 国会で追及されたとき、安倍首相は異常な早口になっていました。「私や妻が関係していれば、これはもうね、国会議員も総理大臣も辞めますよ。これだけは、これだけは申し上げておきたい」と顔を紅潮させて反論していました。森友学園への国有地売却に首相夫妻が関与している証拠があれば出してみろと言っているかのようにも見えました。
 安倍首相は、関与を真っ向から否定しました。あの首相発言のあと、改ざんを主導した首謀者といわれる中村稔理財局総務課長(当時)が、過去の決裁文書などに首相や昭恵夫人が件の土地に関わっているようなことを示す記述がないのか、恐らく詳細にチェックを始めたのでしょう。中村氏は、改ざん前の文書に出ている、安倍首相や昭恵夫人の記述だけでなく、他の政治家たちの記述も含めてリストアップし、作成を指示。そのリストを基にして、近畿財務局の職員たちを二〇一七年二月二六日の日曜日に休日出勤をさせて、改ざんをさせていくことになりました。首相のその場での思い付きで恐らく口に出したので
はといわれている、あの一言の発言を契機に、財務省の組織的な改ざんがはじまったのです。

シナリオがある嘘とない嘘

内田 安倍首相がつく嘘には、「シナリオがある嘘」と「シナリオのない嘘」の二つがあるみたいですね。とっさに口を衝いて出た「シナリオがない嘘」から始まって、「シナリオのある嘘」へと移ってゆく。もろもろ不祥事のきっかけは、首相の意図せざる失言です。
「それは言ってはダメ」ということを不用意に洩らしてしまう。その場で自分を大きく見せようとしたり、相手の主張を頭ごなしに否定するために「言わなくてもいいこと」を口走ってしまう。その点については自制心のない人だと思います。
「その点についてはさきほどは間違ったことを申し上げました。お詫びします」とちょっと頭を下げれば済むことなのに、誤まったと認めることを頑強に拒否する。性格的に自分の非を認めることがよほど嫌なんでしょうね。だから、明らかに間違ったことを言った場合でも、「そんなことは言っていない」「それは皆さんの解釈が間違っている」と強弁する。
「立法府の長です」なんていう言い間違いは、国会で平身低頭して謝らないと許されない言い間違えです。「もしかしたら言い間違えていたかもしれない」「失礼、済みません」と釈明はしたものの、その後も「立法府の長」という発言を繰り返しています。しかも、あろうことか勝手に議事録を改ざんした。

「立法府の長」とか「私や妻が関係していれば」発言がその典型ですけれど、まず不用意なことをつい口走ってしまう。その失敗を糊塗するために、官僚が走り回って、つじつまを合わせて、もともと言ったことが「嘘ではないこと」にする。首相の不作為の「言い損ない」がまずあって、それをとりつくろうために官僚たちが「シナリオのある嘘」を仕込む。第二の嘘には間違いなく「シナリオライター」がいると思います。誰か「嘘の指南役」がいて、「こういうステートメントでないと、前言との整合性がとれないから、これ以外のことは言ってはダメです」というシナリオを誰かが書いている。
――今井尚哉筆頭首相秘書官をはじめ、省庁から出向している秘書官がいます。それぞれ、総理執務室がある官邸五階や内閣府の本庁舎などに部屋を与えられているようですが、彼らがシナリオを書き、チェックしているのでしょうか。
内田 こういう違法行為で最終的に罪に問われるのは、実行犯である官僚たちなわけですよね。政治家はあくまで「私は知らない。そんな指示を出した覚えはない」と言い張る。
それに、官僚たちにしても、たしかに具体的な指示を聞いたわけではないんです。上の人間に皆まで言わせず、その意向を察知して、「万事心得ておりますから、お任せください」と胸を叩くようなタイプでないと出世できない。だから、「忖度」というのは政治家と官僚が「阿吽の呼吸」で仕事をしている限り、原理的にはなくなることはないと思います。

『「安倍晋三」大研究』(望月衣塑子&特別取材班・佐々木芳郎 著、KKベストセラーズ)より

望月衣塑子 (もちづき・いそこ)
東京新聞記者。1975年、東京都出身。慶應 義塾大学法学部卒。千葉、埼玉など各県警担当、東京地検特捜部担当を歴任。2004年、 日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の事実をスクープし自民党と医療業界の利権構造を暴く。社会部でセクハラ問題、武器輸出、軍学共同、森友・加計問題などを取材。著書 に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』(ともに角川新書)、『追及力』( 光文社新書 )、『THE 独裁者 国難を呼ぶ男 ! 安倍晋三』(KK ベストセラーズ)『権力と新聞の大問題』『安倍政治 100のファクトチェック』(ともに集英社 新書)など。
特別取材班  佐々木芳郎(ささき・よしろう)
写真家・編集者。1959 年生まれ。関西大学商学部中退。 在学中に独立。元日本写真家協会会員。梅田コマ劇場専 属カメラマンを皮切りに、マガジンハウス特約カメラマ ン、『FRIDAY』(講談社)専属契約、『週刊文春』(文藝 春秋社)特派写真記者、『Emma』(前同)専属契約を経 て、現在は米朝事務所専属カメラマン。アイドルからローマ法王までの人物撮影取材や書籍・雑誌の企画・編集・ 執筆・撮影をしている。立花隆氏との共著『インディオの聖像』(講談社)は 30 年のときを経て制作予定。