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ブラック企業は「見做し労働」でトコトン搾り取る

社会という荒野を生きる①

2015年7月に靴の販売チェーン大手、ABCマートで従業員に違法な長時間労働があったとして、東京労働局は労働基準法違反の疑いで運営会社を書類送検しました。ABCマート原宿店では、2014年4月から5月、20代の従業員2人にそれぞれ、月109時間と月98時間の残業をさせていたということです。この会社では労使協定で、残業は月79時間までと定めていたということですが、今回はこれを完全に無視していたことになります。労働者を長時間とことん使い尽くしたり、パワハラが横行するブラック企業は大きな社会問題になっているにもかかわらず、一向になくならないのが現実。むしろ、労働問題による相談件数は増える一方だと言われています。宮台さん、こうしたブラック企業がなくならないのはいったいなぜでしょうか?〈『社会という荒野を生きる。』より〉

■長時間労働規制は事実上ザル

 
 

 

 

「ブラック企業」という言葉がインターネット上で使われ始めてから、随分時間が経ちました。その間、非正規雇用者がますます増えてきました。そんな中で、この「ブラック企業」という言葉が指し示すべきものも、ずいぶん変わってきてしまっているんです。

 だから「ブラック企業」という言葉で一括りにされると、問題の切り分けが難しくなってしまいがちです。実際、何が問題なのか見通しが利かなくなっていると思います。まずは、そのあたりから整理をさせていただき、根本的な処方箋を提案いたします。

 

 最初に「ブラック企業」の存在が世間的に大きな話題になったのは2008年の「ワタミ」事件[2008年、ワタミフードサービスに就職した女性が、入社後わずか2カ月で自殺。残業時間は1カ月で140時間にも及んでおり、女性の自殺は過労による労働災害であると正式に認定された]がきっかけです。これは「正社員の終身雇用制を前提とした、サービス残業による長時間労働の強制」でした。これは全体的問題の一部に過ぎません。

 例えば、これは2014年に「すき家」で話題になった、非正規労働者による「ワンオペ」と呼ばれる過酷な夜間の長時間労働とは、方向性が違うものです。まず前者の「正社員の終身雇用を前提とした、長時間のサービス残業」。例えば、「霞が関官僚」にとっては、普通のこと。

 それどころかマスコミ各社でも普通に行なわれています。皆さんも御存じの通りです。でも、これはABCマートの件と同じで、労使協定を締結して、労働組合側が「ここまではいいよ」という風に合意すれば、法的に全く問題ないということになっているのです。

 これは「サブロク協定」と呼ばれるもので、労働基準法第36条に規定があるのでそう呼ばれます。だから「正規労働者の終身雇用を前提とした長時間サービス残業」については、労使協定を作ればエグゼンプション(除外規定)を持ち込めるので、長時間労働規制は事実上ザルです。

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宮台 真司

みやだい しんじ

1959年宮城県生まれ。社会学者。映画批評家。首都大学東京教授。公共政策プラットフォーム研究評議員。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。社会学博士。1995年からTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の金曜コメンテーターを務める。社会学的知見をもとに、ニュースや事件を読み解き、解説する内容が好評を得ている。主な著書に『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社、ちくま文庫)、『正義から享楽へ 映画は近代の幻を暴く』(bluePrint)、『子育て指南書 ウンコのおじさん』(共著、ジャパンマシニスト社)、『どうすれば愛しあえるの 幸せな性愛のヒント』(共著、KKベストセラーズ)など著書多数。


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