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「風疹」にご注意。予防する方法はたったのひとつ!

別名「三日ばしか」。勝手に治ることもあるが…

■「勝手に治る病気」は安心か

 風疹と麻疹には、それぞれ非常に恐ろしい問題がついて回るのです。決して、甘く見てはいけません。

 まずは、風疹。これは妊娠した女性が感染したとき起きる、先天性風疹症候群が問題です。

 先天性風疹症候群はCRSとも言います。これはcongenital rubella syndrome の略です。congenital は生まれつきの、という意味。rubella が風疹。るべら、と読み、「べ」にアクセントがあります。syndrome は前にも出てきた「病気」という意味です(辞書的には「症候群」という訳語を当てますが、まあ「病気」でOKです)。

 風疹に妊婦が感染すると新生児の先天異常の原因となります。これをCRSというのです。

 例えば白内障や緑内障といった目の病気、脳髄膜炎、難聴、心臓の病気の原因になります。特に妊娠初期は要注意で妊娠11週までの感染では先天奇形のリスクは90%と非常に高い。先天奇形を起こす最大の感染症が風疹なのです(Bellini WJ, and Icenogle JP. Measles and Rubella Virus. In Versalovic J et al (ed). Manual of ClinicalMicrobiology 10th ed. 2011. 1372-1387.)。

 CRSには治療薬はありません。なってしまえば、一生その異常とつきあっていかねばならないのです。もちろん、心臓の病気は手術できますし、対応方法がゼロってわけではないのですが。

 ジャーナリストの岩永直子さんが、妊娠中に風疹にかかって子どもがCRSになった可児佳代さんを取材しています。必読です(先天性風疹症候群で亡くなった娘の宿題 同じ思いをする親子を二度と出さないために [Internet]. BuzzFeed. [cited 2018 Aug 23]. Availablefrom:https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/hand-in-hand-kanimama-taeko

 麻疹のほうは幸い風疹と違って妊婦に感染して先天異常を起こすという問題はありません。

 ですが、妊婦がなってもよいかというともちろんそんなことはありません。

 ぼくは昔、妊婦さんが麻疹になり、熱のために早期陣痛が来て往生したことがあります。

 早期出産の子どもは集中治療室(NICU)でのケアが必要ですが、麻疹に感染しています。周りはみんないわゆる「未熟児」です。小児科の先生や師長さんに、「そんな子どもをNICUに入れるなんてとんでもない!」と怒られます。お母さんのほうは産科病棟に入院させたいのですが、やはり同じ理由で「そんなお母さんを産科病棟に入院なんてありえない!」と言われます。かといって内科病棟に入れようとすると「うちは妊婦なんて診れない」と言われます。あー、どうしたらいいのよ! と大変でした

(Ohji G, Satoh H, Satoh H, Mizutani K, Iwata K, Tanaka-Taya K. Congenital measles caused by transplacental infection. Pediatr Infect Dis J. 2009 Feb;28(2):166?7.)

 麻疹の最大の問題は、「空気感染」することです。空気感染とはどういうことかというと、とっても遠くまで空気中を飛んでいって感染するってことです。例えば、エイズの原因になるHIVは空気感染しませんから、隣に感染者がいても「絶対に」感染はしません。けれども、麻疹患者が5メートルとか、10メートル先にいるだけでそのウイルスは空中を舞ってあなたに感染するのです。風疹も空気中を飛んで感染しますがその感染飛距離は麻疹ほどではなく、せいぜい数メートルといったところです。

 というわけで、麻疹は大量の感染者がでやすいのが問題、風疹は麻疹ほどの感染力はないけど妊婦とCRSが問題ってことです。

 いくら麻疹が「基本自然に治る病気」だといっても、たくさんの患者が発生すると、なかには死んでしまう人もでてきます。インフルエンザもそうです。

 インフルエンザも基本自然に治りますが、何千万という患者が発生すると少なからぬ数の死亡者が出ます。ちょうど、この原稿を書いているときにヨーロッパでは麻疹が流行しています。4万人以上の患者が発生し、数十人が亡くなっています(KmietowiczZ. Measles: Europe sees record number of cases and 37 deaths so far this year. BMJ. 2018 Aug20;362:k3596.)。麻疹、侮りがたし、なのです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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