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子供の頃食べた「甘口納豆」。自宅介護の母に出してみた結果…

【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十九回

■自宅介護の母親に「甘口納豆」を出してみたら…

 母が自由の利かない身体で退院してきて、ぼくが毎日の食事を用意するようになって以降、納豆は手間のかからない便利なおかずとして重宝した。

 ただし、子供の頃のような、甘口と辛口の区別はない。

 スーパーで売っている3個98円や、たまに2個128円のプチ高級納豆パックを、そのまま食べるだけ。鉢すら使わない。発泡スチロールのパックを開けて、添付のタレをかけて、カラシもちょっとだけ入れる。工夫ゼロの手抜きおかずだ。

 すると、母が「よく混ぜると栄養が増えるんだって。このあいだNHKでやってた」と言いながら、納豆をていねいに箸で混ぜ、パックの半分を取ってご飯にかける。残りの半分をぼくがもらい、ご飯にかける。

 自宅介護生活中の我が家では、納豆の1パックを母とぼくで半分こずつして食べるのが決まりだった。それが分量的にちょうど良かったからだ。

 一度、子供の頃と同じ「甘口」の納豆を朝食に出してみた。

「昔はよくこうやって食べたよね。卵と砂糖を入れて」

 何か反応があるかもしれないと期待したが、予想外に母はそっけなかった。

「朝は忙しいんだから、あんまり面倒しなくていいよ。納豆はそのまま食べるほうがおいしいて」

 どこまでが本心だったのかは、よくわからない。たぶん、まともに料理のできない息子に、食事の手間を少しでもかけさせないための気遣いだったのだと思う。

 おかあちゃん、そんなに遠慮しなくていいよ。納豆に卵と砂糖をまぶすくらい、面倒な手間でも何でもないんだからさ。

※本連載は隔週木曜日「夕暮時」に更新します。本連載に関するご意見・ご要望は「besttimes■bestsellers.co.jp」までお送りください(■を@に変えてください)。連載第1~10回はnoteで公開中!

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夕暮 二郎

ゆうぐれ じろう

昭和37年生まれ。花火で有名な新潟県長岡市に育つ。フリーの編集者兼ライターとして活動し、両親の病気を受けて帰郷。6年間の介護生活を経験する。



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