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謎の蝶「アサギマダラ」に魅せられた男

海を渡る謎の蝶の正体とは。

■2000キロ以上の飛行も珍しくない蝶

アサギマダラ

 アサギマダラは旅をする蝶として知られる。その旅の生態がわかってきたのは比較的最近で、1980年代初頭のことだ。2001年に台湾から鹿児島県や滋賀県へ北上した個体が確認され、北アメリカのオオカバマダラのように国境を越えることがわかった。2000キロ以上の飛行も珍しくないという。

 アサギマダラの体重は0.5グラムにも満たない。そんな小さな命のどこに、2000キロの旅をするパワーが潜んでいるのだろうか。

 アサギマダラの旅の実態を調べるために、アサギマダラを捕獲して、その翅に「どこで、何月何日に、誰が、何番目に捕獲した個体か」を書いて放し、遠隔地で同じ個体を再び捕獲をする「マーキング調査」を行なっている人たちがいる。

 栗田昌裕氏(67歳)も、こうしたアサギマダラに魅せられた人の一人だ。栗田氏は、「アサギマダラを通して生き物を知る」と題して、次のように述べている(『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか』より)。

 私はアサギマダラは大変に賢い生き物だと思っています。
 それは空間移動、時間選択、物質利用という3通りの智恵を持っていると思うからです。
「空間移動の智恵」とは、旅をして地球の空間を上手に活用することです。
「時間選択の智恵」とは、時期を的確に選んで渡っていくことです。
「物質利用の智恵」とは、有毒な食草やPA物質を含む吸蜜植物を巧みに選んで、生命と繁殖を維持することです。
 アサギマダラの例を通してこのようなことがわかると、実はこれまで無視してきたり、たいしたものではないと思っていた、他のあらゆる生き物も「大変賢く生きている」ことが見えてきます。
 そういう認識から、私たち人間もまた、空間的、時間的、物質的により賢く生きる術(すべ)を大いに学び、未来向きの智恵につなげたいものです。

 以上の言葉からも、アサギマダラという小さな命が、なぜ多くの人々を惹きつけるのか、その理由の一端がおわかりいただけるだろう。

 ところで、栗田氏は専門の昆虫学者ではない。いわゆる在野の研究者である。ご本人は、「普通のおじさん」とおっしゃるが、実はただ者ではない。

 まず驚くのは、栗田氏のアサギマダラ捕獲頭数だ。2005年以後は、毎夏1万頭余を標識することを目指したそうである。(注:蝶は「1頭、2頭……」と数える)。

 天候不順な日が多い中で、日々300頭平均以上に出会いかつ標識し、その上、意義のある再捕獲を続けることは本当に難しい課題なのです。しかし、結果として、デコ平(福島県耶麻郡北塩原村))では、2010年までの6年間で合計6万3667頭の標識ができました。望んだ通り、年平均では1万頭を超えて、1万0612頭/年となったのです」(前掲書より)

 日々300頭を捕獲することだけでも想像を絶することなのに、さらに、捕獲した一頭一頭のすべての翅に、上記の四つの要素を書き込んでいったというのだからすごい。

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栗田 昌裕

くりた まさひろ

1952年愛知県生まれ。医師。群馬パース大学学長。医学博士、薬学博士。栗田式速読法・記憶法・健康法を含むSRS能力開発の提唱者。指回し体操創案者。手相も指導。大学では医療/医学/薬学等を講義。自然教育・環境保護に関心が深く、アサギマダラの研究家でもある。


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