痩せたい、でも楽したい。平成ダイエット狂騒史 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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痩せたい、でも楽したい。平成ダイエット狂騒史

キーワードで振り返る平成30年史 第20回

■りんご、グレープフルーツ、バナナ…単一食品ダイエット

 まずは定番のりんご。消化はよくないので腹持ちはいい。次にグレープフルーツ。柑橘系の匂いが食欲を抑制させてくれるという触れ込み。他にも黒酢、スキムミルク、黒豆、キャベツと健康にはよさそうなものがいっぱい。まだまだある。ブロッコリー、にがり、豆乳クッキー、寒天。基本は低カロリーと腹持ちの良さ、この手のダイエットの天敵は飽きだろう。

 21世紀に入っても、この系列からの刺客が続々登場。平成十六年にはもろみ酢が、翌年にはプーアール茶がダイエット食材として話題になった。こうしたダイエット食材というのは総じてあまり美味しくはないものだが、平成十八年には、まさかのあれがダイエットにいいと評判になる。それがチョコレート。ダイエットの天敵とみなされていたチョコレート、しかしカカオ豆に含まれるポリフェノールは身体にいい。ということで、あくまでカカオ豆の含有量が多いことが条件だが、チョコレートがダイエット食材のラインアップに加わることとなった。「昨日の敵は今日の友」感が半端ない。

 かつて朝一番の自分の尿を飲むと体に良いという飲尿健康法などというなかなか常人には受け入れがたい健康法が流行ったことがあった。そこでもクローズアップされたのが「朝」。一日の始まりである朝は偶然にも響きも健康的でダイエットとの相性もピッタリ。そこで単一食品系と朝の黄金のコラボが実現。それが平成二十年に大ヒットした朝バナナダイエット。朝食にバナナを食べるだけというお手軽さはまさに楽をして痩せたいというダイエッター達のニーズにぴったり。バナナの持つ酵素作用が排泄を促してくれるとのことだった。

 このダイエット法が地上波で取り上げられるとスーパーや八百屋さんの店頭からバナナが一気に消えてしまい品薄に。健康番組や健康特集が昼夜問わず放送されていて、何かが紹介されるたび、その商品が売り切れるという状況は、いまではBSデジタルの通販番組にも引き継がれている。まあバレンタインデーとホワイトデー、恵方巻きなどマーケティングがライフスタイルを提示する形で食品をアピールするのは定番といえば定番には違いない。

 次なる刺客は平成二十二年のヨーグルト。これは数年おきくらいに見直されている商品。乳清がいいとかホエイがいいとか。東日本大震災のあとで原発事故が起こった際には一時的に敬遠されたいたのも、既に多くの人には忘れられていることだろう。

 朝だけ系の極めつけは平成二十三年に流行した朝カレーダイエット。そのインパクトときたらチョコレートも真っ青。デブの好きな食べ物(飲み物と言った人もいたが)ナンバーワンのカレーがまさかのダイエット食に。メジャーリーグで当時大活躍中だったイチローは毎朝カレーを食しているという噂や、女お笑い芸人バービーがバラエティ番組の企画で朝カレーダイエットにチャレンジし二十キロ以上の減量に成功したなどと話題になった。単品系では翌年の平成二十四年にもトマトダイエットなるダイエット法が脚光を浴びている。言われてみればイタリア人にデブは少ない気もしないでもない。

 トマトといえばパスタ。パスタで思い出されるのが平成十四年に流行した低インシュリンダイエット。インシュリンの分泌を抑えることで脂肪細胞が増えることを抑制できるとのこと。GI値の高い食材リストなどが雑誌を飾った。

 
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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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