厳しい時代の到来に備え、排他的極私的互恵的人間関係を作るべし【藤森かよこ】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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厳しい時代の到来に備え、排他的極私的互恵的人間関係を作るべし【藤森かよこ】

家族にせよ疑似家族にせよ結社にせよ人間を支えるのは人間

 

フェミニズムと福祉官僚の利害の一致

 

 大多数の男性の本音は、構成員に男性が多い政府や自治体の本音でもある。女さえ我慢して非人間的なほどの労苦を引き受ければ、福祉予算はかけなくてすむ。社会的コストはかからない。老人問題にせよ、子ども虐待問題にせよ、孤独死孤立死にせよ、引きこもり支援にせよ。

 しかし、遅々とした歩みだったかもしれないが、女だけが我慢しなくてもすむように、介護や虐待などの家庭や家族の問題に関する公的支援制度が整えられてきた。それらの支援が形式だけのものであり実質を伴わないことがあるのは、お役所仕事というものの常だからしかたがない。公務員にとっては、しょせんは他人事である。

 家庭や家族の問題に関する公的支援制度が整えられてきたのはフェミニストたちの功績である。しかしフェミニストたちの力だけでは、こうはならなかった。

 家庭や家族の領域の問題に公的機関が介入したり支援したり関与することは、税金のかかることではある。しかし、それらは役人の仕事を増やし、彼らの権限を高めるので、役人集団にとっては利益になる。役人集団にとっては自分たちの存在意義を確認し示威することができる。機能不全になっている家庭や家族の代替になれる施設や人材を確保するために補助金という税金をどのように配分するかについての実質的決定権を持つことができる。

 つまり、フェミニズム運動の目的と、それを利用して権限を拡大したい役人の利害が一致した。だからこそ、女だけが我慢しなくてもすむように、女に家族問題を丸投げしないように、制度が整えられてきた。

 家庭や家族の領域の問題に公的機関が介入したり支援したり関与するシステムの整備と充実は、役人にとって権限拡大という利益をもたらすだけではない。役人組織の上位にある支配層にとっても大いに利益がある。

 

 

家族という互恵集団が機能不全になれば個人は公的機関の管理下に置かれる

 

 権力者共同謀議論的観点から見れば、家庭や家族の領域の問題の解決に公的機関が介入したり支援したり関与することは、個人をして公的機関への依存を一層に促すという意味で、支配層にとっては人民支配管理の有効な手段になる。

 個人は(機能している)家庭という場を持ち家族に属することによって精神の安定を得たり、情緒的に満たされたりする。と同時に人間が生きて行くためには、人間どうしの助け合い(互恵)が必要だと学んでいく。家庭や家族というセイフティネットがあることによって、生きていく過程で遭遇する困難にも対処しやすくなる。

 家庭や家族の領域の問題の解決に公的機関が介入したり支援したり関与すればするほど、人間は家庭という場を自分の力で保持し家族集団を支えようとはしなくなる。家庭や家族に対して無責任になる。

 女は自分に丸投げされるのはかなわないので公的機関に丸投げする。男は女に丸投げできないのならば、公的機関に丸投げする。公的支援について無知な場合は、女も男も逃げる。そうなると、問題の処理はいやおうもなく公的機関に託される。

 自分の私的個人的領域に起きる問題を公的機関に託すというのは、公的機関の管理下に「直接的に」置かれるということだ。公的機関に自らの生殺与奪権を握られるということだ。人々が、自分の私的個人的領域の家族集団に責任を持たず、寄る辺のないバラバラな個人になれば、頼るもののない個人は「お上」に頼るしかなくなる。そんな人々は「お上」からすれば非常に扱いやすくなる。そんな人々は乳(税金)だけ吸い上げればいい牛(人畜)と同じだ。

 しかし、公的支援は公的支援でしかない。寄る辺のないバラバラな個人の空腹はかろうじて満たせても、心の飢えや渇きまでは満たせない。人間には、排他的な関心を自分に向けてくれる人間関係や絆を信じさせてくれる濃密な人間関係が必要だ。そのような排他的極私的互恵的人間関係が人間には必要だ。

 もしくは、そのような人間関係を持っていたという確かな体験や記憶が必要だ。通常は、それは家族かもしれないが、疑似家族でも結社でもいいのだ、排他的極私的互恵的人間関係ならば。家族でなくてもいい。家族的関係ならば。

 旧ソ連では、家庭や家族が持ちがちな女性への抑圧から女性を解放するという善意の実践だったのか、家庭や家族は私有財産制維持装置であり共産主義の敵であるという認識からか、もしくは人民支配は私的領域からという支配者の深謀遠慮のためか、子どもの集団養育や家庭や家族の機能の集団化が試みられた。しかし、今ではその弊害の方が多かったことが指摘されている。

◆ソ連の「フリー・ラブ」実験の失敗(1) (epochtimes.jp)

◆ソ連の「フリー・ラブ」実験の失敗(2) (epochtimes.jp)

 

 イスラエルのキブツ(私有を否定し、生産消費活動や教育を共同で行う農業共同体)においても乳児期初期からの集団養育が試みられたが、子どもに愛着障害が起きて、やはり子どもの養育には特定の養育者との排他的絆が不可欠であるという結論にいたった。

◆愛着障害について | 森田理論学習のすすめ – 楽天ブログ (rakuten.co.jp)

 

 人間存在に関することは理論どおりには行かない。いかに開かれた平等で公正な人間関係の実現を求めても、人間個人の心の深層は、自分を排他的に特別に愛し永続的な関心を持ってくれる特別な存在を必要とする。それが「母なるもの」だし、家族である。血縁関係かどうかではなく、「自分を排他的に特別に愛し永続的な関心を持ってくれる特別な存在」が必要なのだ。

 

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課 程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。  

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