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なぜ?若手に広まる「会社を頼るな」という風潮

なぜ、心が折れる職場になってしまうのか?(後編)

会社は自分たちの面倒を見てくれるわけではない。会社に都合よく使われるだけ使われて、会社に滅私奉公する人生はまっぴらごめんだ──。優秀な若者のなかには、もはや会社に頼らず、自分のことは自分で守ろうと自己武装する風潮が見られる。その風潮の根にあるものとは。『「働きがいあふれる」チームのつくり方』の著者、前川孝雄氏が説く。

■職場で放置される新入社員たち

 職場崩壊によりもっとも割の合わない思いをしているのは、実は新入社員かもしれません。就職活動を終え、これから新社会人として一歩を踏み出そうというとき、彼らの多くが直面するのが「上司や先輩に仕事をきちんと教えてもらえない」という悩みです。

 

 私が営む会社では、管理職に対して部下を育て活かす姿勢やノウハウを学ぶ「上司力研修」とともに、新入社員に対しては、働く心構えを鍛えてもらう「キャリアコンパス研修」や、シーン別にどう上司や先輩とコミュニケーションをとるべきかを考えてもらう「働く人のルール講座」なども提供しています。入社半年後などの節目に行われるこれらの研修で多く聞かれる悩みが、職場で放っておかれることへの不満や戸惑いです。

「上司や先輩にきちんと仕事を教えてもらえない」
「上司は単に『これをやれ』と言うだけで、やり方をまったく教えてくれない」
「周りの先輩に質問したくても、忙しそうなので、怖くて声がかけられない」
「勇気を出して聞いたら『社内マニュアルを読んでから聞きに来い』と言われた」

 入社早々、職場で放置されるなど想像もしなかったに違いありません。「研修で人事の人から聞いていた話とはぜんぜん違う」という声もありました。

 一方で、上司からすれば、「自分たちが新人の頃も同じような状況だったよ。そんなことで弱音を吐くなんて、これだから今どきの若者は……」と眉をしかめたくなるのかもしれません。

 しかし、当時と今とでは職場環境が大きく異なります。必ずしも「ゆとり世代だから」「さとり世代だから」と片づけられる問題ではないのです。

 今から20~30年前、ピラミッド型組織が一般的だった職場には、新入社員と年齢の近い先輩がいたものです。仕事でわからないことがあれば、上司には聞けなくても、身近な先輩に相談できる環境がありました。

 ところが今は、少子高齢化の影響で若手社員の数が減少し、新入社員には気軽に話しかけられる同年代の先輩がいません。就職氷河期には新卒採用を一斉に控えた時期が続き、下手をすれば10歳以上も離れた人がすぐ上の先輩であることも珍しくありません。年の離れた先輩には気軽に声をかけにくく、結果として職場で放置される新入社員が続出しているのです。

 職場で放置された新入社員は、誰にも相談できず、一人で悩み孤立していきます。その状況に周りの上司や先輩は無関心であることが多いのです。ある20代半ばの女性が、新入社員時代の苦しかった体験を話してくれました。彼女は大学卒業後、大手企業に事務職として入社。同年代の先輩はほとんどいない職場で、20歳ほど年の離れたプレイングマネジャーの上司が、いつも忙しそうに走り回っていました。

 彼女は上司から書類を作成するよう指示されますが、具体的な説明もなく、自力でなんとか仕上げるしかありませんでした。提出すると、やり直しを命じられました。詳しい説明を求めようとしても、上司は不在でつかまりません。自分なりに考えて修正して提出すると、またやり直しと言って戻される。こういう状況がしばらく続き、彼女は体調だけでなくメンタルも崩してしまい、ついには会社を退職してしまったそうです。

 しばらくの療養を経て、彼女は社会復帰に向けたリハビリテーションを兼ねて、短期派遣でティッシュ配りの仕事を始めました。私が彼女に出会ったのはその頃でした。

 当時、私は働く人の「働きがい」についてインタビューを行っていました。「今の仕事に働きがいを感じますか」と尋ねると、彼女は迷わず「はい」と答えました。その理由を尋ねると、彼女は前に勤めていた会社での辛い経験を明かした後で、ティッシュ配りの仕事についてこう話してくれたのです。

「はじめのうちは誰もティッシュを受け取ってくれませんでした。気持ちが落ち込んでうつむき加減になっていると、目の前におじさんが立っていたんです。『ティッシュ1個くれる?』と言われたので、『どうぞ』と手渡すと、満面の笑顔で『ありがとう』と。そのときはじめて、自分が誰かの役に立ち、『ありがとう』と言葉をかけてもらえたことに、涙が出そうなくらいうれしくなりました」

 これは今の職場の崩壊を象徴するエピソードだと思います。「職場におけるコミュニケーション不全」などと大層な言葉で語るまでもなく、「ありがとう」といった日常的な感謝の言葉や、「よくやってくれているね」といった労いの言葉すら職場から消えてしまっていることが問題なのです。

 特に今の若者は、核家族化や少子化の影響で、子どもたちだけのコミュニティのなかで育っています。そんな彼らが社会に出て、多様な価値観や立場の人たちとうまく折り合っていかなければならない環境にポンと放り込まれると、周囲との摩擦から心が折れてしまうこともあるのです。

 職場で放置される若者の問題は、今どきの若者の責任というよりも、チームワークが機能しない職場や会社の問題だと私は思います。

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前川 孝雄

まえかわ たかお

(株)FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師

紀伊國屋書店 新宿本店、紀伊國屋書店 梅田本店、

丸善 丸の内本店、文教堂書店 浜松町店 

1位

「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベスト新書)

大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートを経て、2008年に「人を大切に育て活かす社会づくりへの貢献」を志に起業。「上司力研修」「育成風土を創る社内報」「人を活かす経営者ゼミ」などを手掛け、約300社で人が育つ現場づくりを支援。自らも年間100本超の講演、TV番組、雑誌に出演。YAHOO! 「前川孝雄の人が育つ会社研究室」など連載も数多く持つ。


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  • 前川 孝雄
  • 2016.08.09