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約1000隻。ワークホースとして重用された「アメリカ駆逐艦」

「艦隊のワークホース」こと万能軍艦の実像に迫る!④

 

 しかし試作的な級をいくつか造って基礎を固めることは行われており、第二次大戦が勃発すると、前大戦においてフラッシュデッカーを量産したのと同じ要領で、艦隊駆逐艦の大量産が始まった。まず、開戦直前から建造が進められていたベンソン、リヴァモアの2級が、当初の建造予定隻数よりも多く造られた。これにフレッチャー、アレンM.サムナー、ギアリング、カーペンターの戦時量産の4級が続いた。これら6級を合計すると、実に446隻に及ぶ艦隊駆逐艦が建造されており、艦隊駆逐艦より小型の護衛駆逐艦も、各級合わせて約560隻が竣工している。

 つまり戦時下にもかかわらず、アメリカでは駆逐艦と名が付く軍艦だけで、何と約1000隻が造られたのだ。

 これほどの隻数が建造されたため、アメリカ海軍での駆逐艦は、文字通り「艦隊のワークホース」として重宝された。そして本来の艦隊における駆逐艦の任務はもちろんのこと、艦隊駆逐艦や護衛駆逐艦を改造した掃海駆逐艦、高速兵員輸送艦、飛行艇母艦などといった、より専門性の高い任務に従事する特殊艦種も派生している。

 アメリカ海軍の駆逐艦に課せられた任務で特に重要かつ危険だったのは、レーダーピケットであろう。これは、高性能のレーダーを実用化していたアメリカならではの任務で、機動部隊の外縁にレーダーを搭載した駆逐艦をずらりと配置し、接近してくる敵機の早期の探知に加えて、味方の空母艦上機による迎撃の誘導なども行うものだ。

 特に日本軍の特攻に晒された沖縄戦でのレーダーピケット任務は過酷で、延べ101隻の艦隊駆逐艦がこの任務に就いたが、うち10隻が撃沈され32隻が損傷を被っており、被害の合計は実に任務参加延べ隻数の40パーセントにも及ぶ。

 なお、第二次大戦で量産されたアメリカ製駆逐艦は、同大戦終結直後に始まった東西冷戦に際して、戦禍まだ癒えぬアメリカの同盟諸国に気前よく提供され、国によっては1980年代ぐらいまで現役の座に在って「民主主義の防衛」に大きく貢献している。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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