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ローカル列車で国境を越え、チェコの温泉保養地へ

思い出のヨーロッパの鉄道紀行

堂々たるライプツィヒ中央駅

 20年前のヨーロッパ旅行では、ドイツのライプツィヒから歴史あるチェコの温泉保養地カルロヴィ・ヴァリへ向かった。かつてはヨーロッパ中の王侯貴族や文化人が多数逗留し、ゲーテやベートーヴェンは、この地をドイツ名カールスバートとして紹介している。

 行き方としては、やや大回りにはなるけれど、ドレスデン経由の方が特急や急行乗り継ぎで快適だ。しかし、私は、敢えて距離の短いローカル線を辿る列車旅を選択した。それまで、高速列車や特急、急行ばかりでローカル線にはあまり乗っていなかったからである。

 まずは、DB(ドイツ鉄道)のローカル列車でライプツィヒ中央駅を発車。真っ赤なディーゼルカー2両編成の快速列車(RegionalExpress=RE)だ。クロスシート主体だが、車端部にはロングシートもある。ただし、劇場の座席のように跳ね上げ式なので、誰も座っていないときは自転車置き場となるようだ。ローカルな駅で下車してサイクリングする人が少なからずいるのである。

最初に乗ったDBの赤いディーゼルカー

車内の自転車置き場

 まだ新しい車両で、エアコンも装備され窓が開かないので車内は静かだ。ほどほどの混み方でゆったりしている。平坦な田園地帯を2時間近くひた走り、プラウエンPlauenという駅に到着。ここで列車を乗り換える。ホームで待っていると、ほどなく白がメインで車体の下のあたりが緑に塗られ前面は黒い2両編成のディーゼルカーが到着した。DBの赤いディーゼルカーと雰囲気は似ているけれど、細部はかなり異なる。単なる色違いの車両ではなさそうだ。

Plauenで乗り換えた列車

 この車両を走らせているのは、日本で言うと第3セクター鉄道のようなローカル線運行会社で、Vogtlandbahn という社名が車体に書いてある。車内は、運転台付近と後方の車掌室付近の座席がハイデッカー、その他の部分は床が低い。

 ヨーロッパにある多くの駅のホームは低いので、通常の列車はステップがあり、乗り降りに苦労する。ところが、この車両はバリアフリーのため、路面電車のように床を低くしてノンステップ車両となっている。何だか、わが国の路線バスのような造りだ。ただし、ゆったりとしたクロスシートがメインで乗り心地はよい。

 車内中央部の窓は天井から床まで大きい。ただし、荷棚を天井近くに設置すると、いくら背の高いドイツ人でも届かなくて不便そうだ。それで荷棚は、窓の中央より若干高い位置にある。巨大な窓のメリットが必ずしも活かされているとは思えないけれど、明るい車内であるのは間違いない。部分的に設置されているロングシートの座席は、DBのものと同様に劇場みたいに跳ね上げ式だ。

Vogtlandbahnの車内

 緑豊かな森林地帯を抜け、各駅に停まっていく。50分ほどでバート・ブランバッハ Bad Brambach に到着。何事もなかったかのように、すぐに発車するけれど、これがドイツ最後の駅である。4分ほどで次のプレスナ Plesna 駅に停車するが、ここはもうチェコ国内なのだ。幹線を走る国際列車のような物々しさはないけれど、ドイツから国境を越えてチェコに入国したのである。さらにいくつかの駅に停車し、30分ほど走って終点のへプ Cheb に到着した。

国境駅BadBrambach

チェコ最初の駅Plesna

 へプはドイツとチェコの国境駅となっていて、首都プラハとドイツのニュルンベルクを結ぶ幹線上にある。国際列車が何本も行き交っているけれど、これから乗るのは、その幹線ではなく、へプから分岐する別の路線だ。すでに列車はホームに入っている。4両編成の客車で鉄の塊みたいに武骨な電気機関車が牽引する。ここまで乗ってきたディーゼルカーはローカル線を走ってはきたけれど、エアコン付きで窓が開かない新型車両で車内は明るく清潔、静かだった。しかし、今度乗る客車列車は、かなり使い古した車両でお世辞にもきれいとは言えない。安っぽいシートのボックス席がずらりと並んでいて、荷棚がそれぞれの座席の真上にあるという珍しい造りだ。エアコンはなく、窓が開いている。

 ほぼ定刻に動き出すと、ガタンゴトンと実にやかましい。鉄道旅行としては面白いけれど、これから向かう高級な温泉保養地行きの列車にふさわしいとは思えなかった。

へプから乗った列車の電気機関車

 ローカル線かと思ったが、一応複線電化路線だ。古めかしい客車だが、かなりのスピードで草原を突っ走る。普通列車なので、数分走ると各駅に律義に停まっていく。それも1~2分停車するので、一息つきながら悠然と走る。老体をいたわりながら進んでいくかのようだ。

客車のドア付近

KarlovyVary方面行き客車内の様子

 35分ほどで比較的大きな駅に停車する。ソコロフ Sokolov という名前で、帰りに乗った急行列車が停車した。この地域の拠点駅のひとつなのだろう。

 平原から丘陵地帯にさしかかるとカルロヴィ・ヴァリKarlovy Varyだ。最初にカルロヴィ・ヴァリ・ドヴォリ駅に停車するが、ここでは降りない。カルロヴィ・ヴァリという駅は全部で3つあるのだ。5分後に、ただのカルロヴィ・ヴァリ駅に到着。この駅が今回の列車旅の目的地である。駅構内は広く、側線に長い貨物列車が停車しているし、電気機関車が何両も待機中だ。

KarlovyVary駅で交代したディーゼル機関車

 降りた列車は、しばし停車するようだ。電気機関車の写真を撮ろうと先頭へ向かうと、電気機関車が切り離され、ゴグルを付けたような変わった風貌のディーゼル機関車が代わりに連結される。この先は非電化区間だったのだ。

 チェコに入って初めての駅なので両替をしなければならない。ところが、ずいぶんうらぶれた駅で窓口は閉まっているし、誰もいない。ホテルは歩いて行ける距離ではなさそうなのでタクシーに乗ることになるけれど、お金はどうしようか。意を決して客待ち顔のタクシー運転手に尋ねる。ドイツ語が通じたのは幸いだった。事情を話すと、ユーロ払いで大丈夫とのこと。ホッとして乗り込んだ。

 うらぶれた駅周辺とは打って変わって、10分ほどタクシーを飛ばすと、瀟洒な街並みに差し掛かった。ボヘミアの温泉保養地カルロヴィ・ヴァリは、どうやら列車で来るところではなさそうだ。やがて、ちょっと町はずれにある立派なホテルに到着。妻とのリゾートを楽しんだ。

カルロヴィ・ヴァリの街並み

 滞在の数年後、2006年に公開された映画「007カジノロワイヤル」のロケがここで行われ、スクリーンでホテルに再会、旅行の思い出が蘇った。

宿泊したGrandhotel Pupp

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野田 隆

のだ たかし

1952年名古屋生まれ。日本旅行作家協会理事。早稲田大学大学院修了。 蒸気機関車D51を見て育った生まれつきの鉄道ファン。国内はもとよりヨーロッパの鉄道の旅に関する著書多数。近著に『ニッポンの「ざんねん」な鉄道』『シニア鉄道旅のすすめ』など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/nodatch/

 

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