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『日本書紀』が聖徳太子を攻撃している!?

聖徳太子は誰に殺された?②

■小野妹子もターゲットに

 もっとも、一般的にはこの事態は『日本書紀』の()(ぶん)(自分の都合のよいように文辞(ぶんじ)をもてあそぶこと)であるとする推論が大勢を占めている。なぜなら、隋の国書は 隋の正使・(はい)(せい)(せい)が一通もっていて、妹子が別に所持しているはずがないからだ。

 このあたりの事情を、坂本太郎氏は『聖徳太子』(吉川弘文館)のなかで、次のように語っている。

「総じて、このことは事実としてありそうもないことで充たされている。(中略)その人(『日本書紀』の編者)は妹子の偉大な功績にも落度のあったことを示そうとして、 こうした文を作ったのではあるまいか。(中略)なお、もっと憶測を施せば、小野氏 に何等かの反感をもつ者が、こうした記事を作ったのではあるまいか」

 このように坂本氏は、この『日本書紀』の記述を、単に小野妹子個人に対する中傷と位置づけている。だが、これは聖者・聖徳太子に対し『日本書紀』が難クセをつけるはずがないという、従来の固定観念の枠内の発想にすぎず、この枠を越えないかぎ り、朝廷側の真の思惑を見出すことはむずかしい。

 なぜなら、太子からもっとも信頼され、しかも太子の理想を具現化した小野妹子を攻撃することは、暗に太子自身を攻撃していることに変わりないからである。

(次回に続く)

〈『聖徳太子は誰に殺された?』〉より

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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  • 2015.07.18