■出版社名で本を買う人はいない

「さあ、○○出版の本を今日は買おうぞ!」なんて思って私達は本屋に行くわけじゃない。出版社がオウンドメディアを立ち上げて、自社のコンテンツを発信すると、どうしてもその不具合が出てきてしまう。出版社は、基本的に自社の本でしか商売ができないから。

 加藤さんはこう続けた。

「それと、以前は雑誌が読者とコンテンツの出会いを提供していました。特定の作家の記事が読みたいと思った読者が雑誌を手に取り、結果、他の作家にも出会うということがあった。ところが現在、雑誌ほど出版業界で苦境に立たされている媒体はありません。しかし、雑誌がもたらす読者とコンテンツの出会いはなくなっていいものではないと思うんです。ネット上で雑誌と同じ役割を持ったプラットフォームが作れないかと思い、立ち上げたのがcakesです」

「ちなみに、cakesのサービス開始当初は、どういった層をターゲットにしたものだったんですか?」

「cakesはあえてターゲットを設定せずに作りました。間口を広くして、読者に自分でcakesという雑誌の切り口を見つけてほしいと考えたからです。その考えが上手くハマったのかはわかりませんが、皆様のご愛顧のおかげもあり、今は2万近くの記事と、50の出版社、1000人以上の多様な著者が集まるウェブメディアになることができました」

 確かに、cakesというプラットフォームは、ジャンルのないとてつもなく巨大な雑誌であると考えることができる。読者がcakesにやって来る目的に合わせて、さまざまな雑誌に形を変えるとも言えるかもしれない。

「そもそも出版社というのは、雑誌から始まったところが多いんです。たとえば文藝春秋は雑誌の『文藝春秋』から始まっていますし、小学館も学習雑誌から。コンテンツは雑誌から始まり、本の刊行へと繋がっていく……その流れが現在へと続いている。それをネット上でやりたくて、cakesとnoteを始めました」
「cakesが《雑誌》ということは、noteは《本》だと考えていいんでしょうか?」

 私の隣に座っていたワタナベ氏が聞く。事実、以前拝見したとあるインタビューの中で加藤さんはそのように話していた。「cakesは《雑誌》で、noteは《本》みたいなところはあって、今後は行き来を増やしていきたいんです」と。
「ただ、単純にウェブ上で雑誌や本を作るのではなくて、本が売れない時代だからこその、『雑誌の再定義』と『本の再定義』を行おうと思ったんです」
 雑誌と本の再定義。
 おお、面白い言葉が出て来たぞ。〈…中編に続く〉

cakesでの取材にて。