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「サイコパス医師」の実例。優秀な部下に嫉妬して…

狂ったサイコパスの医師Qの本性

「あの人たちは一体何者なのだ」、「どうしてあんなことができるのだろうか?」、

「私たちは一体どうやって自分を守ればいいのか?」

 ヘアの記述を読んでいて、私はある医師Qの姿を思い浮かべた。彼は精神科の部長という職にある社会的成功者であった。ただ、Qは異常なほど猜疑心が強く自己中心的で、他人の感情を理解しようとしなかった。だが、目上の人間や対外的には媚びへつらうことが非常に巧く、自らの本性を巧妙に隠していた。一方自分より弱い立場にある者に対しては、本領を遺憾なく発揮した。

 彼の「狂った」エピソードは多数ある。あるときQの標的になったのは、入局して間もないCという医局員だった。Cは中堅の医師だったが、臨床の経験が十分ではなかった。けれどもCは研究業績や英語の能力がずば抜けていた(この点ではQはまるで歯が立たなかった)。QはCが抜きん出た能力を持っていること、自分より多くの業績を持っていること、さらに平身低頭しないことなどがみな気に入らなかったようだ。QはCに臨床経験が不足していることを、何かというと問題にし始めた。

 そうしたときに事故が起きた。Cが担当していた外来患者が自殺未遂をしたのである。それはたまたまCが当直の夜だった。その患者は手持ちのクスリを大量に服用した。夕方患者が寝込んでいるのを発見した患者の母親は、電話で病院に連絡しCと相談した。

 Cはそのまま経過を見るように指示したが、翌朝昏睡状態になった患者を家族が病院に連れてきて入院となった。

 患者の生命は助かったが、Qは、「Cの対応が悪い、医者としてあってはならない、もし患者が死んでいたらどうするつもりだ」と糾弾したのである。

 Qは医局の会議で批判をするだけでなく、この問題をテーマに医局の緊急討論会をわざわざ開いた。そして医局員全員を集めた中で、Qは自らと手下の若い医局員によって、2時間以上に渡って厳しくCを攻撃したのであった。このためしばらくしてCは医局を辞めている。

 身体の奇形が存在するように、精神病質は精神的な奇形と言ってもよいのかもしれない。われわれが受け入れる必要があるのは、統合失調症や精神遅滞が病気や疾患であるのと同様に、精神病質もある種の病気であるという現実である。

『殺人に至る「病」-精神科医の臨床報告-』(ベスト新書)より構成>

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岩波 明

いわなみ あきら

1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。医学博士。精神保健指定医。都立松沢病院、東大病院などで精神科の臨床や精神鑑定にたずさわる。2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授。昭和大学附属烏山病院院長。

近著に『殺人に至る「病」-精神科医の臨床報告-』(KKベストセラーズ)、『発達障害』(文藝春秋)などがある。

 


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