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【変異株への対応は?】文科省のマニュアルで学校内の感染拡大は防げるか

第76回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■今回は「休校はさせない」という文科省の方針

 児童生徒の感染は、今年1月上中旬にピークを迎え、その後に減少したが、3月下旬から4月にかけて再び増加傾向になっており、全国的な感染者の増加と連動している。
 そうであれば、児童生徒の感染も増えていくと考えるのが妥当だ。それにも関わらず文科省は昨年のような休校措置をとるわけでもなく、また、前倒しになった1人1台ICT端末の利用を推進しているようにも思えない。

 4月23日、萩生田光一文科相は閣議後記者会見において、「文部科学省から地域一斉の臨時休校を要請することは考えていない」と明言している。ただし休校の必要性を完全否定しているわけではなく、「学校の臨時休校は、地域の感染状況を踏まえて学校設置者が判断することだが、真に必要な場合に限定して慎重に判断すべきものだ」と語っている。
 マニュアルの改訂版では、「子どもの学びの保障や心身への影響などの観点から避けるべき」との考えを示している。あくまでも、「休校はさせない」という方針なのだ。

 その理由を、児童生徒の感染は「家庭内感染が大部分」だからとしている。学校では感染しないから休校の必要はない、ということなのだろうか。
 児童生徒に感染が確認されるのは、たとえば父親の感染が確認されて、濃厚接触者として子どもも検査を受けた結果、感染が確認されたといったケースが多いはずだ。しかし、その子が普段と変わらず登校していたとしても、その友だちが濃厚接触者と見なされるわけではない。取っ組み合いのケンカをしていたとしても、濃厚接触者として検査対象にされることはない。
 理由は、「マスクをしていれば濃厚接触者と判断されない」というルールが学校現場ではまかり通っているからだ。これにどれほどの説得力があるのか、かなり疑問だ。
 これでは、学校感染と見なされるケースは、そうそう見つからないだろう。だから、休校措置は必要ない、とされるのだ。「休校にしないための理屈」と言われても仕方ないのではないだろうか。

 

■1日1回の清掃・消毒などは「省略可」に

 そしてマニュアルの改訂版では、これまで求めてきた大勢の児童生徒が触れるドアノブや手すりなどの1日1回の清掃・消毒については、「手洗いが適切に行われていれば省略できる」としている。清掃・消毒が無意味だから省略できるとしたわけではない。「教員の負担軽減の観点」からなのだという。
 清掃・消毒での教員の負担が大きくなっているのは事実だが、それを改善するには「省略」ではなく、担当者を雇うべきだろう。

 また、児童生徒の感染場所が学校ではないとしていることについても、児童生徒全員にPCR検査を実施するなど科学的に証明すべきではないだろうか。それを行わずに、言葉だけのつじつま合わせをしていては不信感を煽るばかりである。

 子どもたちには無症状が多いかもしれないが、教員はそうはいかない。子どもたちよりリスクは高い。それなら医療従事者と同じように、ワクチン接種を優先されてもいいような気もするのだが、文科省は、そこにも触れようとはしない。
 改訂マニュアルにおいて、文科省は説得力のある対策を示せていない。しかし、学校や教員の負担軽減にもなっていないマニュアルに振り回された挙げ句、感染拡大という事態を迎えた時、責任を取らなければならないのは学校や教員である。

 

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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