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【変異株への対応は?】文科省のマニュアルで学校内の感染拡大は防げるか

第76回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

休校
子どもたちが安心・安全に学べる環境…そのために必要な仕組みを考えたい

 文科相は学校に対して「休校要請」を行わない方針を明言した。しかし、子どもたちが集まる施設での変異株クラスターが発生したという報告もある中、いま、学校は子どもたちが安心・安全に学べる場所だと言えるのだろうか。改訂された文科省による「衛生管理マニュアル(以下「マニュアル」)」を見ていきたい。


■子どもたちに「感染拡大の傾向は見られない」のか

 文科省は4月28日、新型コロナウイルス感染症に対する学校での感染対策の指針となる「衛生管理マニュアル(以下「マニュアル」)」を改訂し、全国の都道府県教委などに通知した。しかし、残念ながらその内容にはあまり期待できそうもない。

 新型コロナでは変異株の感染拡大が深刻化しているが、学校での対策については従来どおりの3密(密閉、密集、密接)回避やマスク着用、手洗いなどの徹底となっており、特段新しいことはない。その理由は、「15歳未満で明らかな感染拡大の傾向は見られない」ということらしい。しかし、3月23日付で日本小児科学会予防接種・感染対策委員会が発表した「子どもと新型コロナウイルスの変異株の感染について」には、次のように記されている。
「国内では、子どもが集まる施設で、この変異株によるクラスターの報告がされ、多くの子どもが感染しています」

 変異株は子どもの方が感染しやすいとの説もあるが、これについては委員会のレポートは「特に子どもに多いということはなく」と否定している。マニュアルでも、「子どもが大人より感染しやすいということはなく、どの年齢でも感染しやすい可能性がある」としている。ただし、「従来株に比べると、子どもへの感染力は強い可能性がある」とも明記している。

 子どもと大人、どちらが感染しやすいのかの問題ではない。従来株は、子どもは感染しても症状が出なかったり、出たとしても軽く済んでいた。
 変異株も、先の委員会レポートによれば「子どもが感染した場合、既存株と異なる経過を示すことはないと報告されています。子どもでは感染者の多くが無症状から軽症で、既存株でも変異株でもその違いはありません」と報告されている。従来株と同じように、子どもが感染したとしても本人の症状は軽く済むというわけだ。

 それでも、子どもが感染するリスクは従来株よりも高い。また、無症状であったとはいえ、子どもから子どもに感染していく可能性は否定できない。子どもが集まる施設での変異株によるクラスターの報告もあるというのに、文科省は「15歳未満で明らかな感染拡大の傾向はみられない」ので従来の対策でいい、としているのだ。

■児童生徒の感染者数は1万7,570人を超える

 また、「感染拡大の傾向は見られない」としているが、子どもたちが感染していないわけではない。マニュアル改訂版には、昨年6月から今年4月15日までの学校関係者の感染状況が発表されている。それによれば、新型コロナに感染した教職員は2,382人となっているが、児童生徒の感染者数は1万7,570人なのである。
 無症状も多いとされる中で、これほどの児童生徒の感染が確認されていることになる。ここから推察しても、無症状で確認されないまま登校している児童生徒はかなりいるのではないだろうか。

 

次のページ今回は「休校はさせない」という文科省の方針

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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